『日本人が中国を嫌いになれないこれだけの理由』 瀬口清之 201412月 日経BP

 

 

日本にとって中国とは難しい国である。が、日本の将来を大きく左右する存在であることも紛れもない事実である。政治的、経済的、そして軍事的な全ての意味においてである。

 

とりわけこの10年ほどは、政治的に非常に困難な出来事が続いた。中国では、靖国参拝や尖閣問題が切っ掛けとなって反日運動が起き、その反動で日本では嫌中間を煽る動きが出た。

 

しかし、好む好まざるに関わらず、中国が日本の隣国であることは未来永劫変わらない。両国の経済が密接に関連した上で両国の経済が発展してきたし、これからもそれが続くことは否定できない事実である。

 

多くの日本人には、中国がまだ途上国であるという意識があるが、12億という巨大な人口を抱え、国民1人あたりGDP2014年で7600ドルの水準に達した。中国は地域的な貧富の差が大きく、沿岸部の大都市を見れば、既に先進国の経済水準に近づいている。しかも、中国の金持ちは日本お金持ちを凌駕する。

 

中国の経済規模(GDP)は既に日本の二倍を超える。経済成長率が年々低下しつつあるとは言うものの、今年の目標はそれでも年率7%である。一方、今年の米国の成長率見通しが3.4%、ユーロ圏が1.4%、そして日本が0.2%に留まることを考えれば、中国はいまだに驚異的な成長を維持している。

 

著者の指摘の中で、私もちょっと意外な事実があった。

 

日本企業の中国離れ、チャイナプラスワンといった言葉が聞かれて既に久しいが、2010年以降、日系企業の中国投資は衰えていないという点である。しかも、その投資の質が変わってきている。

 

かつては安い労働力を求めて進出した日本からの投資であったが、今や中国国内の消費を前提とした投資に様変わりしてきている。つまり、かつての中国は輸出の為の安価な製造拠点であったが、今や巨大な消費市場に変わったということである。

 

日本人が抱いている中国市場は外資に対して差別的であるという考えも正しくない。確かに、外国企業を対象にした政治的な意図を持ったキャンペーン(アップルやニコンがそのやり玉に挙がった)もあったが、その昔の日本の外資規制に比べれば、中国の外資制度は相当公平である。

 

 今年の春節では多くの中国人観光客が来日し、その爆買いぶりもニュースになった。数億という中国人が中流の生活者となり、より豊かな消費生活を楽しみたい、海外にも出かけたい、そして沢山のお土産を買って帰りたいと思うのは当たり前である。

 

 さて、今の中国の経済発展がいつまで続くかという疑問がある。

 

社会が成熟する中で、おそらく2020年以降は今の経済成長率が大きく鈍化すると見るのは妥当な話である。さてその時、中国社会にどのような変化が起きるのだろうか。恐らく共産党一党独裁は維持できなくなるだろうし、様々な問題に対処するためには政治の多様性は不可欠である、民主化の動きをいつまでも封じ込めておくわけにはいかないだろう。

 

さらに大きな不安定要素は、経済成長率が低下し、貧富の格差、公害問題、そして官僚の腐敗に対する国民の不満が爆発したとき、共産党政府にどのような対応が取れるのであろうか。もし、政権が不安定となった時、巨大化した人民解放軍がどのような行動を取るのだろうか。

 

日本における昭和の不況から軍部の台頭、そして関東軍が中国への侵略を画策して戦争を起こしたという歴史が、最悪のシナリオとして中国には当てはまらないという保証はない。

 

 

 

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