『国家債務危機』 ジャック・アタリ著 林昌宏訳 20111月 作品社

 

 

冒頭、日本語版に対してアタリが序文を書いているので、これは日本への警鐘かと思いきや、必ずしもそうではない。かつての債務危機は中南米やその他発展途上国の問題であった。しかし、今や国家債務危機という爆弾を抱えているのは、アメリカ、西欧諸国、そして日本といった先進諸国である。

 

アタリの祖国であるフランスも例外ではない。GDPに対する公的債務は77%まで拡大し、年間の公的借入は税収の137%に及ぶ。イギリスやドイツも状況はそれほど変わらない。

 

アメリカは少し例外的であるが、西欧諸国と日本は社会の高齢化にともない、医療、年金、介護、雇用等の公共サービス・コストがますます増加する半面、高い経済成長は見込めない。すなわち、政府の活動がGDPに占める比率は増え続けるが、税収はDGPに比例してしか増加しない。その結果は明らかであり、公的支出と税収は乖離していく。

 

厄介なことに、政府が公的支出を増加させたり、税負担を軽くしたりすることには、国民から大きな反対が出ることは少なく、極めて簡単である。ところがこれとは反対に、公的支出を削減するには、既得権益者の説得にとてつもない努力が必要である。増税もまたしかり。政治的には極めて難しい。

 

アタリの言葉でいえば、「公的債務とは、政治を動かす者が、現実を無視して夢を語る虚言癖の現れである」。まさに、日本の政治の現状であり、言い得て妙である。

 

このまま公的債務が膨れ続けるとどうなるか。日本でいえば、今はまだ国内にかなりの資本が蓄積されているが、あと10年もすれば公的債務はGDP300%に達する。もはや自国の貯蓄だけでは債務を賄えなくなる。国内の預金者は政府に対して信頼を失い、ファイナンスをやめる。金利は上昇し、日本はデフォルトに向かって突き進むことになる。

 

過剰な債務の解決策は限られている。増税、歳出削減、経済成長、低金利、インフレ、戦争、外資導入、デフォルトである。今の日本が手にしているのはそのうち「低金利」だけである。構造改革が進められない日本に「経済成長」と「外資導入」は望めない。結局、政治的な解決で確実に担保できるのは「増税」と「歳出削減」の二つしかない。

 

アタリは、債務破綻回避の処方箋について、フランスとEUを対象に多くのページを割いているが、その提言は、今の日本にもそのまま当てはまる。混沌とする日本の政治の行方を考えながら、この本を読んで頂きたい。

 

この文章は、ビジネスネット書店「クリエイジ」の2011627日の書評として掲載したものです。<http://www.creage.ne.jp/>

 

 

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