イスラム国 テロリストが国家をつくる時』 ロレッタ ナポリオーニ著 村井章子訳 20151月 文藝春秋社

 

 

 原書は英語版の『The Islamist Phoenix』。キンドルならば941円でダウンロードできる(ちなみに日本語版の本は1458円)。英語版でも僅か100頁ほどの内容なので、それほど苦痛なく読むことが出来る。一度お試しあれ。

 

 さて、その内容である。日本人人質を殺害したことで、国内でも一気にイスラム国が話題に上った。なぜあのようなテロリスト集団が強大な力を形成しつつあるのか、マスコミでも様々な講釈が行われた。が、イスラム国が形成されるまでの経緯を体系的に知るには、この本がまさにピッタリである。

 

 テロという点で、イスラム国はアルカイーダと類似する。決定的に違うのは、アルカイーダはテロを通して西洋文明に挑戦することが目的であった。言い換えれば、テロそのものが目的であった。しかし、イスラム国は国を作ることが目的であり、その理念はイスラムの教えに従うカリフ制度に基づく宗教国家の創造である。テロはそのための手段である。

 

 イスラム国の舞台はシリアとイラクである。

 

シリアはアサド政権と反政府勢力との間で内乱状態にあり、イラクは米国がサダムフセイン政権を倒したたことで、国家そのものが崩壊してしまった。両国の内乱には、欧米だけでなく、ロシアや中国を含めた外国の政治的な介入と駆け引きが大きく影響を及ぼしている。加えて、湾岸諸国からもその内乱を支援する様々なカネが流れ込んでいる。つまり、シリアとイラクはある意味多面的な代理戦争に陥ったままである。

 

 その代理戦争の間隙を縫って真にイスラムの教えに従うカリフ国家を作ることは、イスラム国にとって大きな大義である。

 

国として経済的自立に必要な財源を確保するためには、石油の密輸、人質の身代金、そして税金の徴収に至るまで、ありとあらゆる手段を使う。また、世界に対する喧伝も、ICTの専門家を集め、インターネットを駆使して世界中に情報を発信する。そこでは、イスラム国家としての正当性を主張し、イスラム聖戦に参加する兵士のリクルートを行い、そして敵対する国々と勢力に対して恐怖を与えることにも抜かりはない。

 

 イスラム国の行いは、日本人の目には過激派の蛮行としか映らない。しかし、フン族(モンゴル族)による征服、オスマン帝国の支配、西欧による植民地化、イスラエルの建国といった中東を巡る過去の歴史が彼らの宗教的な大義にどのような影響を与えたかを知れば、なぜイスラム国があれだけの存在を示すようになったのか、多少なりとも理解することが出来るようになるだろう。

 

 西洋文明が作り出した民主主義が絶対的な価値観として世界の平和を規律してきた時代が終わり、多極的な思想と価値観が世界情勢を左右する時代に入りつつある。喩え、我々先進国がそれを受け入れたくないとしても、である。

 

 

 

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