『だから、居場所が欲しかった。』 水谷武秀 2017年11月 集英社
副題はバンコク、コールセンターで働く日本人。バンコクにコールセンター?私はまさか海外にコールセンターがあるとは思ってもいなかった。
コールセンターで働く人達の姿は、ある意味、日本での生活の理不尽さ、生きづらさを示している。
彼らが貰う給与は9万から10万円という。日本からバンコクに派遣される大手企業の日本人が年収1000万円というのは珍しくもない。コールセンターの給与は本当に僅かな金額である。コールセンターの仕事がネット上で「底辺」といわれるゆえんである。
そんな条件でも、日本の生活に満足できず、あるいは日本の生活がうまく行かなくなってバンコクに渡る人がいる。
もちろん給与は安く、環境は厳しいが、半面、気楽さがある。
コールセンターで働くある女性には、日本でうまく行かなかった異性関係とは逆に、バンコクならば「ゴーゴーボーイ」をいとも簡単に連れ出すことができる世界があった。そして、それが癒やしとなり、繰り返しているうちには、男にはまってしまった。
別の女性は、日本で夫と離婚し、バンコクで男を漁った。曰く、「手っ取り早くていいな。金で解決」。ゴーゴーボーイの大半は貧困層である。大金をはたかなくとも、浅黒いいい男が簡単に買える。逆援助交際である。
何やら日本の常識からすれば、突拍子もないような話である。しかし、よく考えてみれば、一方で男達がバンコクで女遊びをしながら、他方で女達に貞淑を求めることは矛盾でしかないのだろう。
ゴーゴーボーイとの子供を妊娠した女性は日本で出産し、バンコクに戻ってきた。彼女は、「バンコクは気持ちが楽。日本は気詰まりで、夢も希望もない」と語る。
女性ばかりではない。男性でも、日本の生活に疲れ、タイ人の奥さんと共にバンコクに逃げてきた元郵便局員の話もある。彼は物腰の柔らかい真面目な人という。
この本を読んでいると、多様性のない日本の社会を写しているようにも見える。
日本では、実態として同じような価値観が共有できなければ社会から弾かれてしてしまう。とりわけ中年以降ともなれば、ドロップアウトした人に復活の道はない。そんな日本の方がよほど病んでいるのだろう。
著者が結びで言う、「日本で生きていくことが苦しいのであれば、無理に留まる必要はない」という言葉が突き刺さる。