『ゾンビ経済学』 ジョン・クイギン著 山形浩生訳 筑摩書房 201211

 

 

題名はおどろおどろしいが、中味は至って真面目な経済学の本である。相当、専門的な内容にも触れるので、長いすにひっくり返って、ポテチをつまみながら読むには、ちょっと重いかもしれない。

 

ここで取り上げたゾンビ経済学とは、「大中庸時代(1985年以降は、経済が安定して続く時代)」、「効率的市場仮説(金融市場は最も適切な投資価値を示す。つまり市場の判断は正しい)」、「道学的確率的一般均衡論(マクロ経済は、マクロ指標からではなく、ミクロ経済の積み上げで分析すべき)」、「トリクルダウン経済(金持ちが豊かになれば、その恩恵は貧乏人にも行き渡る)」、そして「民営化(政府がやるより、民間企業の方が効率的)」と並ぶ。

 

著者のスタンスは、ケインズ経済的な立場を擁護する。市場主義に基づく経済運営がもっとも効率的で正しいという、ついこの間まで肩で風を切ってまかり通っていた経済理論が、リーマンショックを境に行き詰まってしまったことに対する逆説的な反論と講釈すれば、この本の狙いはわかりやすい。

 

といっても、著者の主張をそのまま受け入れられるかと言えば、疑問点も多々あるが、それは読者がお考えになればよい。

 

などと言うと、無責任な話にも聞こえるが、日本ばかりか、欧州、米国という先進国の経済が軒並み行き詰まり、各国とも処方箋について、賛否両論がぶつかり合っている今の状況を見れば、すべての問題に恒久的に対応できる経済論理など存在しないのは、お分かりのとおりであろう。

 

政府が取る経済政策は、その時代その時代で、振り子のように、右から左へと揺れ戻る。

 

小泉政権下で決まった郵政民営化は、再国有化もどきに揺れ戻ったし、昨年末の選挙で返り咲いた安倍政権は、GDP200%を超える国債発行額は気にもとめず、少々時代遅れとも見える公共投資の拡大で経済需要を作りだし、経済の立て直しを図ろうとしている。その一方で、富裕層と相続への増税を打ち出すことで、あらたな税収を確保しようとする(そこには、消費税の値上げに対する批判、いわゆる税の逆累進制への批判を和らげる意味合いもある)。

 

経済政策とは、経済的な利益追求の最大化(まさにアニマルスピリットの世界)と社会の不均衡の是正の間で揺れ動く。

 

書にある経済論理についての踏み込んだ小難しい議論は経済学者にお任せするとして、日本の一般読者(ちなみに、著者は豪州の経済学者である)には、先進国、とりわけ米国で拡大しつつある所得格差の拡大の問題、民営化の是非について、データをもとに説明しているので勉強になる。

 

 

 

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