『テキヤはどこからやってくるのか?』 厚香苗著 20144月 光文社新書

 

 

 テキ屋さんと言えば柴又の寅さんのイメージがある一方、ヤクザ系のちょっとアブナイ方達にも見える。この本、そんな題材ではあるが、立派な社会学として纏められている。そもそもは、著者が博士論文として纏めた研究成果を一般向けに新書版に書き下したものである。

 

 テキ屋とは非常にローカルな社会であり、その文化圏は北海道、東日本、西日本、沖縄でまったく異なる。

 

テキ屋さんは香具師(やし・こうぐし)とも呼ばれる。農業の片手間に露天商を営んでいた香具商人(こうぐしょうにん)にルーツの一つがあるとも言われるが、これが全てではない。彼らの歴史は江戸時代、すなわち近世にまで遡るが、それ以前の歴史はよく分からない。その理由は、テキ屋の成り立ちが口頭伝承でしか伝えられておらず、書き物として歴史が残っていないためという。

 

 こんな歴史的な背景に始まり、テキ屋社会の親分子分の関係、縄張りといった独特の世界を覗かせてくれる。

 

テキ屋は自らを「三割ヤクザ、七割商人」と称すことがあり、彼らの存在が社会の日陰に置かれている一面がある。確かにヤクザと関わりを持つテキ屋はいるが、半面、「ヤクザは極道」だが「テキ屋は神農道(神農とは医薬と農業を司る神)」と誇りを持って言うテキ屋さんもいるという。

 

 陽の当たる社会からちょっと外れたそんなテキ屋さんではあるが、戦後の混乱期の食料が手に入らなかった時代、闇市を通して、人々の生活を支え敵たことも事実である(そんな時代、お上のお指図どおりにしていたら、庶民は飢え死にしてしまった)。裏社会に足を突っ込んでいるテキ屋は確かにいるが、それだけを取ってテキ屋を社会の病理と呼ぶのは乱暴だろう。

 

 後書きにあるように、報道機関は取り上げなかったが、福島原発事故の後にいち早く物資を現地に運んだテキ屋さん達がいたという。一部のテキ屋さんには、神農が宿っている。このあたりは著者の思いが書き込められている。

 

 

 

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