『消費増税では財政再建できない−「国債破綻」回避へのシナリオ』 野口悠紀雄著 20121月 ダイヤモンド社

 

 

野田総理大臣が政治生命をかけて押し通した消費税法案であるが、その議論が賛否を含めて短絡的な視点にとどまっていると思うのは、私だけではあるまい。

 

支持派が「次世代にこれ以上の財政赤字の付けを残すべきではない」と言えば、反対派は「今増税すれば景気が更に冷え込む、中小企業には耐えられない」、と反論する。いずれも、情緒論的な論点の域を出ていない。

 

この本、題名は消費税であるが、中身はもっと踏み込んでいる。

 

日本の財政が抱える問題の根本には、人口構造が大きく変化していくことがある。要は人口の高齢化である。言うまでも無く、高齢化は社会保障費の増加を招く。この膨張し続ける社会保障費の問題にメスを入れなければ、増税で賄える話ではない。国内での製造業の雇用は減少し、それを上回る勢いで労働力人口は減少する。増税だけで財政赤字に対処しようというのであれば、消費税は北欧並みの30%という話になる。

 

人口の高齢化は、マクロ経済に大きく影響を与える。高齢化で家計の消費がそれほど増えないなかで、貯蓄率が低下してきた。他方、それを上回る勢いで、新興工業国に対する競争力を失った日本企業の投資は減少し、企業は資金過剰となった。この二つの縮小と縮小が進む中で、相対的に資金が余り、幸か不幸か、この資金が今やGDP200%にまで積み上がった巨額の国債残高を支えてきた。経済衰退の中で起きてきている日本特有の現象である。なにやら元気のなくなる話である。

 

野口先生の言わんとする日本の最大の問題は、人口高齢化が進むなかで経済構造の変化が対応できなかったことに帰結する。輸出で富を稼ぎ出す時代が終わったことは、誰の目にも明らかである。これは、国際収収支の構造を見れば一目瞭然。日本の所得収支の黒字は貿易収支の黒字を上回っている。

 

つまり、海外の新興国からの安い輸入品が増え、国内の製造業の輸出競争力が衰えていく一方で、これまでに積み上げた対外債権からの収入が大幅な所得収支の黒字を生み出す。貿易赤字が出たとしても、経常収支は黒字を続けるという「成熟した債権国」の姿である。

 

今後日本が対応すべきは、労働力の質を変化させることである。高齢化する社会の中で製造業が衰退するのは自明の理である。高齢化の中で、介護産業に目が向けられてはいるが、今のようながんじがらめの規制の下では、産業としての生産性の向上に繋がらない。実際、製造業が放出した雇用の受け皿となった介護の賃金は、さまざまな規制の縛りで、製造業に比べて意図的に低く抑えられたままである。

 

膨れ上がる社会保障費を抑えるために、介護サービスという新しい産業の自由度を阻害しているのが今の姿である。医薬や医療機器の開発を含めれば、相当な規模で新規産業が開拓できるはずなのに、その様にはなっていない。

 

 人口の高齢化と社会保障問題。厚生労働省に任せきりにするには、あまりにも重要すぎる問題である。

 

 

 

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