『日中百年の群像―革命いまだ成らず』 譚路美著 2012年1月 新潮社

 

 

著者のあとがきには、「過去を知ることは現代を見極めることでもある。現代の事柄を本当に知りたければ、過去の営みを知ることこそ役に立つ。そして現在は、過去から未来へとつづく道の通過点でしかない」とある。

 

まさか、尖閣諸島問題でこじれにこじれた現在の日中関係を予言して、この言葉を書いたとは思わないが、中国の近代史を知ることは、今の中国の行動を読み解くことの一助になるのかもしれない。

 

そう、中国がここに来て、なぜこれほどにナショナリズムを強く打ち出し、覇権の誇示ともいえる行動に踏み出しつつあるのかである。

 

日本にとっての尖閣問題だけではない。ベトナムとフィリピンは、中国との間で南シナ海を巡る深刻な領土問題を抱えている。一方、中国は、南シナ海の大半を自国の内海として治めようという意思を行動に移した。まさに彼らが言う「核心的利益」の追求である。さらに米国に対しても、海軍力を強化し、太平洋で米軍に対抗できる存在を示そうとしている。中国初の空母の就航、そしてハワイ以西を中国の軍事的権益とするという中国海軍の発言はその一端である。

 

領土問題だけでなく、現在の中国は、米国に次ぐ経済力と軍事力を背景に、先進国が作り上げた国際ルールではなく、中国独自のルールを押し通すという行動を明確にしている。そこには、共産党による一党独裁、民主主義の否定という政治的な特殊事情はあるが、中国の覇権的行動をそれだけで説明できるとは思わない。

 

7000年の歴史を持ち、12億の民を抱える中国は過去から現在に至るまで、大国であり続けてきた。しかし、19世紀央からの近代史においては、中国は西欧諸国に国土を侵され、そして19世紀末からは新興国として列強に加わった日本からも領土の侵略を受けた。

 

孫文が起こした辛亥革命の時代とは、そのような時代背景の下で、ほとんど朽ち果てようとしていた清朝を倒し、民主的な近代国家を目指すものであった。しかし、新政府の下では、各省勢力との間の勢力争いは収まることなく、毛沢東の登場を待つまで、国として纏まることはなかった。

 

結局、中国にとって、19世紀後半から20世紀半ばまでの歴史は、数千年に及んだ過去の栄光の歴史とは対極をなすものであった。今の中国には、中華という自尊心と、近代において列強に蹂躙されたという屈辱感が彼らのメンタリティーのどこかにあって当然であろう。

 

今回の反日デモによる日本企業への破壊行動は、清朝末期の義和団事件を彷彿させる。そんな目で中国の近代史を知れば、今の中国を本当に知ることができるのかもしれないし、将来の中国を予測することができるのかもしれない。上下二巻にわたるこの本を読み通すのは相当重いが、それ以上の対価がある。

 

 

 

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