『最後の資本主義』 ロバート・B. ライシュ(著) 雨宮寛・今井章子(訳) 201612月 東洋経済新報社

 

 

原題は「Saving CapitalismFor the Many, Not the Few」。

 

ライシュはリベラル派の経済学者であり、因って立つ基盤は「21世紀の資本」を書いたトマ・ピケティに通じる。現在の資本主義、とりわけ米国のそれは、一部の金持ちが経済の富の多くをかっさらい、半面、そうではない人々は富の恩恵にあずかれず、新しい貧困層が発生している。

 

大企業の力は自営業者や個人の力を完全に凌駕するようになった。

 

その結果、個人事業者はフランチャイズ契約を結んでも、一方的に不利な契約内用を押し付けられ、個人と企業が結ぶ売買契約でも同じような事が起きている(余談であるが、かく言う私もマイクロソフト・オフィスのバグを有償で対応せざるを得なかったことがある)。

 

これとは対照的に、大金融機関は大きくて潰せないという理由で、2007年の世界金融危機に際して、政府から債務救済を受けた。勿論のその原資は庶民の税金である。

 

企業のCEOは株主の顔色を伺うだけで、一株あたりの利益向上しか頭にない。利益を達成すれば、たっぷりと報酬を貰う。それにぶら下がるウオール街の金融専門家や他のプロフェッショナル達もたっぷりと金を稼ぐ。

 

その一方で、極々普通の人々の給与水準は上がっていない。実質価格で比べれば、その昔の平均給与水準より下がっている。

 

何故そうなったのか。

 

力のある者は政治家に対して多額の資金を提供することでロビーイングを行い、自らに有利になるように法律や制度を変えて行ったことにある。力のあるものはますます有利に金を稼ぎ、利益を取り込める仕組みを作る。そして力のない庶民はその割りを食らい、ますます富の分け前から遠ざかっていく。

 

いまの米国では、トップ1%のお金持ちが国の個人資産の42%を独占する。中間階層が駆逐され、貧困層に擦り落ちていくというのは、健全な社会が崩壊しつつあることの証左である。

 

こんな現状の経済の仕組みを変えなければならないというのが著者の主張である。

 

翻訳版の題名よりも、原題の方がその趣旨を良く表している。ベタ訳すれば、「資本主義を救え——小数のためでなく、多数のために」。言うまでもなく、小数とは既得権を持った金持ちであり、多数とは庶民のことである。

 

 

説明: SY01265_「古い書評」目次に戻る。

 

説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: door「ホームページ」に戻る。