『探求エネルギーの世紀』 ダニエル・ヤーギン著 伏見威訳 20124月 日本経済新聞

 

 

名著『石油の世紀』や『市場対国家』で知られるダニエル・ヤーギンの新作である。彼はエネルギー経済学者として、これまでの知見と洞察をこの本にまとめ上げることを意図したのだろう。

 

エネルギー問題が一般の人々にとって日常の話題となったのは、1970年代の石油危機であったが、国家、軍事、経済にとって、エネルギーの開発と利用はもっと昔に遡る重要なテーマであった。

 

ワットの蒸気機関の発明により、それまで人馬に頼っていた産業活動は桁外れに生産性を上げた。発明家エジソンによる電気の商業的な利用は、配電という現在の電気事業の形態を作り出した。軍艦の燃料を石炭から石油に変えることを決断した英国により、中東の原油開発が始まった。そしてエネルギーは、炭化水素から原子力、そして再生可能エネルギーへと進化していった。

 

今や国際社会はグローバルなエネルギー体系の上に立脚しており、エネルギー産出国と消費国との立場の相違、各国の内政事情、民族や宗教の対立、そして環境への影響と、様々な面からエネルギー問題に揺さぶられる。

 

そして、エネルギーを巡る様々な心配ごとを抱える。石油はいつまで持つのだろうか、中国やインドを例にあげるまでもなく、これまで低所得国であった国々が中所得国、そして欧米や日本と同じような水準でエネルギーを消費するようになれば、果たして十分なエネルギーを賄うことができるのだろうか。そして、エネルギー消費に起因する環境問題が人の生活を危うくするのではないか。

 

我々の社会の豊かさを維持していくためには、エネルギーの安全保障は必須である。しかし、それを決める要因は複雑に絡み合ってくる。資源量の制約、需給、価格、供給の途絶、危機の勃発、我々は今まで幾つかの経験をし、その解決策を探し出してきた。

 

では、将来も今まで通りに事が進むのであろうか。今使うことができるエネルギーは有限であるが、人の知識と洞察力はその限界をもっと遠くに押しやってくれる。それが科学と技術である場合もあれば、投資である場合もある。それを適切に導く政府の政策も必要である。エネルギーの確保、創造に向けた探究心こそ著者がもっとも言いたい点である。

 

 

 

説明: SY01265_「古い書評」目次に戻る。

 

説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: door「ホームページ」に戻る。