『プライベートバンカー カネ守りと新裕福層』 清武英利 20167月 講談社

 

 

 シンガポールのオフショアー取引を通して、日本での課税を回避することを模索する裕福層だけを相手にする銀行をテーマにしたノンフィクションである。登場人物は、ウェブで調べれば分かるように実在する。

 

 かのパナマ文書で耳目を集めたように、日本での課税、とりわけ贈与税や相続税を回避するために海外に資産を移転する、いわゆるキャピタルフライトの動きが出ていることはご存じの通りである。単に資金を海外の口座に移転するだけでなく、自身の国籍を変えたり、あるいは5年を超えて海外在住の実績を作ったりすることで、その資産が海外で形成されたものとして課税を逃れる。

 

 プライベートバンカーは、その様な課税の回避を狙ってシンガポールに移り住む、あるいは口座を移す日本の裕福層を相手にする。(少なくとも私などは、相手にしてもらえない。)

 

 主人公は野村證券の営業として辣腕を振るった人物である(実名かどうかまでは分からないが、当該人物にインタビューし、書き上げたという)。主人公が身を置くシンガポール銀行は、結果だけで報酬が決まる冷徹な組織であり、結果が出なければ、そのバンカーはお払い箱となる。社内のヒエラルキー、そして見にくい内部の駆け引きも当たり前のように起きる。身を粉にして、理不尽を我慢して成果を出すことで、多額の報酬を手にする。

 

 課税を逃れてシンガポールに移住し、海外在住の実績を作るために、ただただ5年間を無為の日々として過ごす苦痛に耐えるだけの人物(顧客)もいる。海外移住を決めたのは良いが、現地で女に騙されるお金持ち、さらにはバンカーによる資産の横領とその証拠隠滅で命まで狙われるお金持ち、まさに人生様々。

 

 その一方で、国税も手をこまねいているわけではない。各国政府との資産情報の共有、国内では背番号制(マイナンバー)による口座の名寄せと、租税回避者を捕捉するための網を掛けていく。

 

 そんなシンガポールのオフショアー取引という現実の世界を覗く、ノンフィクションの物語である。

 

 

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