『紙の約束 —— マネー、債務、新世界秩序』 フィリップ・コガン著 松本剛史訳 日本経済新聞出版社 201211

 

 

そもそもそれ自体何の価値もない紙っ切れが、なぜ信頼の上に成り立ち、経済を支えるようになったのかというお話しから、この本は始まる。

 

その昔、地中から掘り出された金に裏打ちされた価値でしかマネー(金貨)が成立しなかった時代に始まり、金本位制に基づく貨幣の時代を経て、今やマネーとは貨幣だけでなく、クレジットカード、デビッドカード、そしてコンピューターを介して、あっちの口座からこっちの口座に数字を書き換えることにまで、その概念が広がった。その結果、とんでもない額のマネーが世界中を駆け巡るようになった。

 

経済の発展に伴い、富が膨らみ、そして負債は、それ以上の速度で拡大した。

 

これは個人も、国も同じである。負債とは、それを抱える側(債務者)にとって勿論厄介な代物であるが、債権者も回収リスクという厄介な問題を抱える。債権者の心配は、貸した金の価値が守られ、返して貰えるかという話に尽きるが、負債者はいざとなれば居直ることも出来る。これが国の負債となれば、海外の債権者はほぼお手上げである(デフォルトは、1980年代の南米諸国、2000年に入ってもアルゼンチンで起きている)。

 

先進国とて、暢気なことを言ってはいられない。今や、先進国は軒並み多額の債務を負っている。

 

筆頭はもちろん日本(何せGDPの二倍の額に及ぶのだから)。米国もGDP100%に達している。そして先進国の政府は、経済危機と膨れあがる負債の狭間で喘ぐ。各国とも景気を上向かせるために量的緩和(マネーを市場にばらまく)を行うが、日本などは、過去20年にわたって思うような結果が出ていない(まさに世界が初めて経験する世界である)。

 

著者は、世界恐慌、そして第二次大戦、その後のブレトンウッズ体制の確立とその崩壊、固定為替制度から変動為替制度に移り、ほとんどコントロールが効かなくなったとも見える通貨の流通という歴史の流れを分かりやすく説明してくれる。

 

かつての米国のように、圧倒的な経済力を持ち、世界経済の安定を図る役割を担える国は今や存在しない。唯一、黒字をため込み続ける中国は、このまま成長を保つことが出来れば、あと10年もすれば、米国を凌ぐ世界一の経済大国になるかも知れない。が、一方で為替操作と投資規制を続ける中国が世界の通貨と経済の安定に貢献する存在になれるのかといえば、頷ける人は少ないだろう。

 

 いずれにせよ、(日本を含めて)欧米先進国にとって都合のよい世界ではなくなってきている。

 

 

 

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