『キャスターという仕事』 国谷裕子 2017年1月 岩波新書
彼女には、問題の多いNHKで正統派の活動をしたという自負があるのだろう。
この本を読んで初めて知ったが、彼女はNHKの職員ではない。キャスターという仕事を契約に基づいて請け負うフリーランスであった。
真相は知らないが、彼女の降板を巡って、首相官邸の意向(注)をNHK幹部が汲んだ結果であった、あるいは前会長の籾井勝人氏の判断があったといった噂はあるが、真実はわからない。
(注)「クローズアップ現代」が集団的自衛権の行使容認をテーマとして取り扱った際に、国谷キャスターによる菅義偉官房長官へのインタビューが菅氏の癇に障り、菅氏は不満を洩らしたという。
ただし、この本の中で彼女が書いているように、番組改訂で時間帯が変わることは決まったが、番組担当者の間では彼女が続投するという話になっていたという。しかし、番組改編の直前になって、契約更新はないと告げられたという。
彼女のように、真実を報道し、問題を突き詰めて議論するという姿勢は、時の政府の顔色を窺って番組編成をするのが当たり前のNHKにはそぐわなかったのだろう。もう一つ、「クローズアップ現代」が取り扱ったテーマの中で放送倫理の点で問題のあるスキャンダルがあったことも少なからず影響したのだろう。
番組最終回でゲストとして迎えた柳田国男氏のメッセージが一番心に響く。要点だけであるが、次のとおりである。
1. 自分で考える。感情に流されず論理的に考える。
2. 政治問題・社会問題の根底にある問題を読み解く力を付ける。
3. 他者の心情・考えを理解する。
4. 多様な考えのあることを知る。
5. 適切な表現を身につけ、自分の考えを他者に正確に理解してもらう。
6. 自分から行動を起こし、いろいろな人と会う。
7. 現場、現物、現人間こそが最高の教科書。
8. 失敗に絶望せず、自分の考えを大切に地道に行動し続ける。
他人の目を気にし、その場の雰囲気を読み、周りに波風立てないことばかり考えている今の日本人に一番必要な言葉である。