『朝鮮半島と日本の未来』 姜尚中 20206月 集英社

 

 

ドナルド・トランプと金正恩の二度の会談は結局物別れに終わり、北朝鮮の核とICBM開発問題は膠着したままとなった。トランプにとって、次期大統領選の再選を大きく左右する蔓延するコロナウイルス対応と落ち込んだ経済の立て直しが喫緊の課題であり、北朝鮮問題への関心は薄れている。

 

一方、日韓関係はといえば、戦後最悪の状況にあり、両国では反日と嫌韓が渦巻いている。すなわち、日米韓にとってすべてが膠着したまま八方塞がりになっている。

 

本書は現状行き詰まっているこの様な朝鮮半島を巡る問題を取り上げる。日韓問題については、これまでの経緯をすべて取りまとめており、全体像を理解するには分かり易い。

 

著者である姜氏は、結論として、実質的に核保有国となった北朝鮮に対して核廃棄を前提として問題解決を図ることは不可能であり、まずは南北の融和を達成しその後順次核廃棄を目指すべきであると論を結ぶ。その考え方は、かつて金大中が標榜した「太陽政策」、あるいは現在の文在寅が目指す南北の融和がすべての解決に向けた第一歩であるという論に近い。

 

日本の将来にとっても、南北統一が実現すれば北にある鉱物資源、あるいは2500万人という人口を考えれば、大きな経済的な利益を手にすることが出来ると言う。要は日本にもビジネスチャンスがあると述べているが、私の目にはこれは少々楽観的すぎる。

 

もし、南北統一によって韓国が北朝鮮を経済的に支えるならば、それは数十年に亘って大きな負担を抱えることになる。2018年時点で、北朝鮮の1人あたりGDPは約13万円、韓国のそれは338万円である。これは5000万人の韓国民が2500万人の貧困層を支えるという構図である。決して、文在寅が言うようなバラ色の未来というわけではない。かつて西ドイツが東ドイツを併合した状況を遙かに越える経済的な負担である。

 

最終章で著者が描く核の廃棄に向けて六者協議(六カ国協議)の枠組みを使うことについては一つの考え方であるが、その枠組みを発展させれば、それが将来的に北東アジアの安定に寄与し中国の覇権拡大を抑えることに繋がるという意見は、余りにも楽観的すぎる。

 

中国にとって北朝鮮の核は煩わしい問題ではあるが、中国が南シナ海を巡って引き起こしている覇権主義は、彼らの言葉に従えば「核心的利益」である。六カ国協議の枠を拡大すると言ったところで、所詮それが北朝鮮の核問題の解決以上のものになるわけではない。

 

結論は別として、朝鮮半島にルーツを持つ姜氏にとって、隘路に陥ったように見える日韓問題の解決と南北朝鮮の統一に向けた思いは理解できる。この本は政治という視点からではなく、一哲学者の思いという点で読むと面白い。

 

 

 

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