『ケインズかハイエクか——資本主義を動かした世紀の対決』 ニコラス・ワプショット著 久保恵美子訳 201211月 新潮社

 

 

現代の資本主義経済の基本理論を作った二人の経済学者の歴史である。彼らの経済理論は、1930年代初頭に起きた大恐慌以降、資本主義経済国が好況と不況を繰り返すなか、その時々の政府の経済政策として実践されていった。

 

第二次世界大戦を終え、1970年代初頭に至るまでの間、ケインズ経済学がハイエクの古典派経済学に勝ったかのように見えた。

 

不況下にある経済を回復するには、ただ市場に任せるだけでは駄目だ。国家が財政を出動して、需要を創出し、経済を活性化しなければいけない。第二次大戦を終結し、195060年代に経済発展を謳歌したアメリカは、概ねケインズ経済学的アプローチを採用した。そして、ケインズ経済学に反論する学者の声は小さくなるばかりであった。唯一の例外は、マルクス経済を標榜する共産国陣営だけであった。

 

しかし、資本主義諸国が石油危機により、インフレ下の不況というスタグフレーションを経験したことで、ケインズ経済学の神通力が効かなくなった。

 

アメリカでは財政赤字の増大により、大きな政府か小さな政府かというように、議論は経済学ではなく政治へと変わっていった。イギリスもしかりである。肥大化した国有会社は単なる金食い虫となり、生産性は落ち込むばかりであった。

 

1980年に入ったアメリカでは、レーガン政権がサプライサイドエコノミーを指向して景気を回復させた(もっとも、財政赤字は膨らむ一途であった)。そしてイギリスでは、サッチャー首相が国有企業の民営化を強硬に推し進め、経済の立て直しに成功した。この時点で,あれほど輝いていたケインズ経済学は一気に色あせていった。古典派経済学の復権である。

 

不況を打破するためには、国の介入が望ましいのか、市場に任せることが正しいのか、この議論は日本でも繰り返されてきた。

 

例え今の財政赤字が拡大しても、財政投融資でインフラ整備を行い、現在の不況を解決することの方が大事であるという意見があり、その一方で、そんな無駄な公共投資は一時しのぎのカンフル剤でしかなく、国の借金で使いもしない高速道路を作ったところで、子や孫の世代に借金をつけ回すだけだという主張がある。

 

一般の人にとって、純経済学的な議論はなじみが薄いが、この本はケインズとハイエクの人生をストーリーとして描いており、大恐慌から現在に至るまでの間、二つの経済学が政治のなかでどのように実践されていたかを興味深く辿ることができる。

 

 

 

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