『日本政治の大転換』 フランシス・ローゼンブルース/マイケル・ティース著 徳川家広訳 勁草書房 201212

 

 

 米国の政治学者の手による、日本の政治制度の変遷と現在の状況を鋭く分析した書である。日本の大学にも政治学科はあるが、果たして、これだけの分析力を持った学者が日本にどれだけいるのだろうか。

 

 経済バブルがはじけ、20年を超える年月が経過した。誰もが身にしみているように、日本の経済はいまだ停滞を続けたままである。1980年代までの高度経済成長の時代は、確かに活力があったとは思えるが、よく見れば、一方で輸出により外貨を稼ぎまくり、他方では海外からの参入に高い障壁を作り、国際競争力を持たない国内産業を保護することで、日本が成長した時代でもあった。

 

 55年体制により盤石な地位を作り上げた自民党政治は、中選挙区制という政治制度を通して、さまざまな権益を調整することで、各利権団体の支援に基づく議員を擁立し、議席の過半を常に確保し続けた。自民党とは、著者の言葉を借りれば、「鉄とコメの同盟」、すなわち、利権団体に支持される複数の派閥が寄り集まった政党であった。そこでは、党としての政策よりも、派閥間の調整の方が重要であり、派閥を維持するためには莫大な選挙資金を必要とした。

 

 しかし、経済のグローバル化と経済バブルの崩壊により、それまで自民党に献金することで利権を確保してきた企業にとって、そのコストが見合ったものではなくなり、自民党にとっても、金がかかりすぎる選挙は持続可能なものではなくなった。また、都市部に住む多数の消費者にとって、特定団体の利権擁護は関心事ではなくなっていった。

 

 1994年の政治改革で、中選挙区制が廃止され、小選挙区と比例代表が並立する制度に変わったことで、個別の利権団体に推された複数の自民党候補が同じ選挙区で同時に当選するということがあり得なくなった。特定団体の利益擁護ではなく、候補者が所属する政党の政策論争で選挙を戦う仕組みへと変わった。

 

当然、各政党の政策は、都市部に生活する消費者や納税者の意向を汲んだものに収斂するようになる。多数派の関心は、土建業者のための公共投資よりも、年金の心配であり、高齢化する社会への不安である。小数の既得権益者を守ることよりも、多数の消費者の意に沿うことの方が重要な政策論争となった。しかも、小選挙区制度により、多数派の選挙民の意向が歴然と選挙結果に表れるようになった。

 

 その結果、既得権益者の利権調整を基盤とする政治は終わりを迎え、競争力のある企業と消費者からの支持を失えば政権が変わるという、本来の民主主義の姿を実現するものとなった。もう一つの重要な変化は、政策論争で外交問題と社会の変革が大きな論点となってきたことである。

 

 中選挙区制から小選挙区比例代表並立制という選挙制度改革と、経済のグローバル化という二つの変化が日本の政治を大きく変えたという著者の分析には、非常に説得力がある。

 

 

 

説明: SY01265_「古い書評」目次に戻る。

 

説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: door「ホームページ」に戻る。