『日韓外交史』 趙世瑛 201511 平凡社新書

 

 

日韓に横たわる歴史問題は、過去何度となく外交交渉の中で取り上げられ、その時々において両国国民を感情的ともいえる行動にまで走らせた。

 

この歴史問題は韓国人にとって決して消えることのない怨念となる一方、日本人にとっては幾度もなく蒸し返される謝罪要求に不満が積もるという状況を作り出した。

 

現状では慰安婦問題に旧日本軍の関与があったのかなかったのか、竹島問題では歴史的にどちらの国の固有の領土であるかという点だけに議論が集中しているように思える。

 

しかし、1965年に日韓基本条約が締結され、国交が正常化してすでに50年が経過した今、外交の歴史の中でこれらの問題がどのように処理されてきたのか、それを理解している一般人は極めて少ない。

 

そんな状況下で、慰安婦と竹島を巡る両国民の議論は、近視眼的かつ感情的な議論となって繰り返されている。

 

韓国でいえば安倍首相と朴槿恵大統領の下で決着した慰安婦問題解決の合意を破棄すべきという声の高まりであり、日本でいえばあちらこちらで目にする嫌韓感情とヘイトスビーチである。

 

著者の趙世瑛は外交官として日韓の政治交渉に携わってきた人物である。

 

彼は韓国人ではあるが、決して韓国の立場からだけで歴史問題を論じるのではなく、両国政府がその時々の外交交渉において、どのような政治的、経済的背景の中で日韓関係を作り上げてきたのか、その裏で歴史問題がどのように取り扱われてきたのか分かりやすく纏めている。

 

1965年の日韓正常化は当時の朴正熙大統領のもとで進められたが、日韓基本条約はこと植民地支配の賠償という点で、両国政府にとってそれぞれ都合のよい解釈となるように曖昧な形となった。

 

朴正熙は当時まだ貧しかった韓国の経済発展を図るため、日本からの経済協力の獲得を最重視し、歴史問題の清算と個人への補償問題の解決を中途半端なままにした。

 

これに対して日本政府は条約に基づいて植民地時代の補償はこれで全て解決したという立場を取った。

 

当時の状況として、外交交渉において問題を突き詰めてしまえば両者が決して折り合えないのならば、曖昧なまま合意に至るということは、あり得る形ではあった。

 

しかし、韓国経済が発展し、経済的な従属の立場から同等の立場へと変化する中で、曖昧にしたままであった外交上の解決が韓国国民にとってもはや曖昧なままでは済まされないものとなり、問題が顕在化した。

 

それが国民の不満となって表れ、その不満が時々の政権の不安定さを助長し、日本との外交交渉の中で度々歴史問題が蒸し返されるという道を辿った。

 

外交の歴史には常に光と影の部分がある。日韓の関係を発展させ行こうというならば、歴史問題について今に至るまでの外交の経緯を知ることは是非とも必要である。

 

 

 

 

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