『日本軍と日本兵—米軍報告書は語る』 一ノ瀬俊也著 2014年1月 講談社現代新書
旧日本軍の戦略や戦術に関する本は、すでに沢山出ている。そもそも旧日本軍には、戦略という発想が欠落していたが、戦術の失敗についての分析は『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』が有名である(初版はダイヤモンド社から出たが、現在は中公文庫より再刊されたものが入手可能)。
この一ノ瀬氏の著書は、米陸軍軍事情報部の戦訓広報誌をもとに日本陸軍の姿と行動を明らかにしたものである。つまり、敵が日本軍をどのように分析していたかというものである。
米軍の分析はなかなか面白いし、結構当を得ている。よく言われるように、日本軍は白兵至上主義、つまり銃剣で突撃して、肉弾戦で相手を倒すというイメージがあるが、米軍はそのようには見ていなかった。
開戦直後こそ、米軍兵士も日本兵は死を恐れず戦う超人であるといった漠然とした恐怖感を持っていたようであるが、実際に戦っていく中で、それが単なる妄想でしかなかったと気づくようになる。
実際のところ、「平均的な日本兵」は優勢にあるときには勇敢であるが、追い込まれるとパニックに陥ると分析している。さらに、接近戦、銃剣戦には及び腰であり、日本兵の剣術は突きばかりで、格闘に弱いと評価している。これは、多分に米兵と日本兵との体格の違いに起因しているのかもしれない。
面白い分析は、日本軍が軍事目的に対してダイナミックに行動することが出来ない組織と見ていることである。
組織行動に規律はあるが、命令系統が崩壊し、個人が判断をしなければならなくなると、思考停止に陥るとも見ている。つまり、上からの命令に対して忠実な行動をとることができるが、自己判断を求められるとまったく何もできなくなる。つまり、自ら考えて行動する能力に乏しいというわけである。
村社会の意識が軍隊の中にもはびこっているという分析も面白い。上から下までが一緒になって酒を飲んで気勢を上げ、仲間意識を醸成する。ところが別の組織(部隊)との連携は必ずしも強くない。それが陸軍と海軍との間の話となれば、相手の欠点をあげつらうことさえある。
もう一つは、日本軍の行動はワンパターンで奇策ばかりに頼るという点である。その典型が夜襲とバンザイ突撃であるが、米軍はこれを対処しやすい自殺行為としか見ていない。
これは旧日本陸軍に対する分析ではあるが、その多くが、今の日本人や社会組織にも通じるところであろう。