『さっさと不況を終わらせよ』 ポール・クルーグマン著 山形浩生訳 20127月 早川書房

 

 

日本では、ポール・クルーグマンの経済書と言えば、古くは『クルーグマン教授の経済入門』に始まり、『世界大不況への警告』、その改訂版ともいえる『世界大不況からの脱出』などの翻訳書がある。この『さっさと不況を終わらせよ』は、リーマンショック以降、不況からなかなか抜け出せないアメリカ経済について、政府に対して浴びせた言葉(いやいや、経済学者としての強い提言)である。

 

ご存じのように、クルーグマンの主張はケインズ経済的な考え方であり、民間が投資を控えている経済不況の下では、大胆な政府支出の拡大で需要を作り出すしかないという、単純明快なものである。

 

曰く、オバマ政権下で、景気対策として政府予算が投入されたが、規模が不足であった。財政支出と並行して、連邦準備制度理事会(FRB)は貸出金利を下げ続けたものの、ゼロ金利に近く、これ以上下げる余地がなくなってしまった(つまり、ひもは引くことはできるが押すことはできないという、流動性の罠に陥っている)。

 

これでは駄目だ。今のアメリカは、目先の税制赤字などに惑わされるのでなく、もっと大胆に、もっと継続的に、財政を出動させ、雇用を確保し、ある程度のインフレを進め、経済を活性化させろ、というわけである。

 

何やら日本の過去10年、いや20年を集約したような話である。残念ながら、この本では、日本の状況の引用はあっても、踏み込んだ話はない(が、詰まるところは、日本に対しても同じ提言となるのだろう)。

 

民間に需要拡大ができない状況では、唯一、資金を投入して需要を拡大できるのは政府だけであるという主張は、リチャード・クーが長きに言い続けてきたことと、基本的に同じである。景気の低迷に苦しんでいるときに、財政緊縮すれば、経済そのものを壊してしまう、その付けは国民の窮乏に帰するだけという立場を取る。

 

しかし、クルーグマンの主張に対して、財政赤字があまりにも巨大化して、国債が消化できなくなり、急激な金利の上昇を引き起こせば、経済の崩壊につながるという意見がある。これ対しては、彼は次のように論破している。

 

国の借金(国債)は永久に借り換えができるので、インフレが進めばGDPに対する債務比率は減るし、景気が回復すれば税収増で対応できる。

 

米国の今の状況は、ギリシアの財政破綻とは全く異なる。ギリシアの財政破綻は、国がコントロールできないユーロという欧州の共通通貨体制の下で、他のEU諸国からの資金流入で赤字を補ってきた。米国は国債を自国通貨で発行しており、多くは国内で消化されている、というわけである。

 

翻って、日本の現状が彼の主張で解決できるのかどうかは、私には分からない(訳者の山形氏は支持しているようではあるが)。何せ、日本の国の債務はすでGDP200%まで膨らんでおり、もはや米国の100%などという水準ではない。加えて、東日本大震災の復興予算19兆円のうち2.5兆円が横流しで使われたという報道を聞くと、これまたウンザリしてしまう。

 

いずれにせよ、この本、山形氏の訳本としては、珍しく「お真面目な日本語」で書かれており、中年以上の方々でも抵抗なく読める。是非ともお読みいただき、「さてさて、20年にも及ぶ日本の不況をどう解決すべきか」、いろいろと頭を巡らせてみては如何か。

 

 

 

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