『趙紫陽極秘回想録−天安門事件「大弾圧」の舞台裏!』 趙紫陽著 河野純治訳 20101月 光文社

 

 

天安門事件が起きたのは19896月であったので、すでに20年を超える月日が過ぎ去った。かつては、中国の民主化を巡り、大きなイデオロギー論争にまで発展したこの事件も、今ではあまり話題にも上らなくなってしまったかのように見える。現在の中国は、経済発展を謳歌する中で、かつての学生民主化運動も風化しようとしているのかもしれない。

 

中国が軍事的、政治的、経済的にすでに日本をしのぎ、米国に対抗できるだけの地位を築きつつあることは紛れもない事実である。しかし、中国は依然として共産党一党独裁による社会主義体制にあり、本来、市場経済とは相容れない政治体制にある。そこには多くの矛盾があり、それゆえに保守派と改革派との間で政治権力闘争が繰り返されてきた。

 

毛沢東が進めた階級闘争、そして文化大革命による政治的混乱と経済の停滞を経験した中国は、ケ小平が政治的な権力を手中に収めることで、社会主義というイデオロギーの建前を守りつつ、統制経済を市場経済に転換するという実態として資本主義経済と何ら変わりのない経済開放を進め、1980年代以降、急速な経済成長を遂げた。

 

しかし、そのケ小平も民主化を敵と見なし、あくまでも共産党独裁が中国にとって唯一最も正しいものであり、三権分立は忌避すべきものという立場を崩すことはなかった。中国の政治は、依然として人が統治するものであり、法が統治する形態にはなっていない。1980年代後半には、胡耀邦や趙紫陽という政治家が中国の民主化に理解を示し、政治改革を進めようとしたが、その動きは党の長老と保守派により封じ込められ、二人は失脚した。

 

経済的発展を謳歌する現在の中国には、政治的な改革を求める動きは表立っていないし、当面、そのような動きが起きるとも思えない。

 

しかし、社会主義体制の基で、権力の腐敗が進み、貧富の差の拡大は確実に進んでいる。筋金入りの共産主義者として政治家の道を歩んだ趙紫陽が晩年に悟った「国家が近代化され、市場経済、文明を実現するためには、必然的に議会制民主主義の制度を採用しなければならない」という確信が中国で実現するには、まだ時間を要するのであろう。

 

中国の政治闘争は、日本に比べれば遙かに複雑で、したたかである。自らの主張を正当化するための根回し、理論武装、そして政敵との争い。そのような政治の裏舞台を知る上で、本書を読むことを強くお勧めする。

 

 

この文章は、ビジネスネット書店「クリエイジ」の20108 23日の書評として掲載したものです。<http://www.creage.ne.jp/>

 

 

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