『ブラックストーン』 デビッド・キャリー/ジョン・E・モリス著 土方奈美訳 201112月 東洋経済新報社

 

 

プライベート・エクイティあるいはレバレッジド・マネジメント・バイアウト(LBO)などと言うと、日本人はすぐさま、「ハゲタカファンドか」と反応する向きも多いが、これはメディアの刷り込みと、市場主義に対する偏見の為せる技である。

 

「失われた20年」を通り越し、このまま行くと「失われた30年」になりそうな日本である。が、もしも1990年代の日本にプライベート・エクイティが存在し、競争力をなくしたゾンビ産業を買収し、思い切って事業売却や、他社との合併を進め、企業の再生を図っていたならば、日本の経済も成長できていたのかもしれない・・・・・・と思うのは、一面的な見方すぎるのだろうか。

 

プライベート・エクイティは、決して乗っ取り屋ではないし、大量の解雇と資産の切り売りで、利ざやをガッポリ稼いだ途端、短期で逃げ出す金の亡者ではない。彼らの目的は、中長期的な投資であり、買収する企業側の経営陣と友好的な関係を保ち、数年にわたって経営権を握ることにより事業を改善していくことにある。あくまでもリスク資本を供給する担い手である。

 

もちろん企業を再生する段階で、一時的な人員の削減や、不採算部門の売却はあるが、最終的には、企業価値を高め、その雇用も増やしていくという再生シナリオに従う。出口時点における彼らの利益の大きさばかりが話題となって、やっかみ半分の非難も目立つが、リプルウッドによる新生銀行(旧日本長期信用銀行)の再生は、日本企業にはとてもできなかった仕事であると、私は思っている。

 

さて、この本の中に出てくる人々、相当に個性が強い、というよりもアクが強い。だからこそ、この世界で成功できる人たちなのだろう。それぞれの産業についての卓越した分析力、経済の動きに対する鋭い洞察力、周りに惑わされない強い意志、そしてもう一つ、金に対する執着も不可欠である。しかも、短期的な儲けに右往左往するのでなく、長期的に利益を生むことができるかどうかを判断する才能がなければ成功しない。

 

日本的な経営が評価される面は確かに否定しないが、それだけでは時代遅れになっているのも事実である。優しさは美徳であるが、それがもたれ合いになったり、その裏返しとして、お仲間同士の足の引っ張り合いが起きたりした途端、経営は行き詰まる。なにやら、今の日本の閉塞感を暗示しているようでもある。

 

リーマンショックから欧州の金融危機へと続いたことで、市場主義への懺悔があちらこちらで聞こえるが、今の日本の企業を再生するには、市場を見極め、リスクを取って、思い切って改革を行うことが必要である。

 

 

この文章は、ビジネスネット書店「クリエイジ」の201257日の書評として掲載したものです。<http://www.creage.ne.jp/>

 

 

 

 

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