『バーナンキは正しかったか?−FRBの真相』 デイビッド・ウェッセル著 藤井清美訳 20104月 朝日新聞出版

 

 

この本は、大恐慌の再来とまで言われた20089月に勃発したグレートパニックへの対応の裏舞台を、連邦制度準備理事会(FRB)の議長であるベン・バーナンキを主人公として描いたものである。また、本書の最大のおもしろさは、当時の動きを臨場感あふれる形で綴った点にある。

 

連邦準備制度の名を知っていても、その仕組みをうまく説明できる人はそれほどいないであろう。

 

連邦準備制度は単一構造ではなく、12の地区連邦準備銀行とそれを統括するワシントンのFRBで構成される。地区連邦準備銀行は決してFRBの下部組織ではなく、当然、それぞれの主張がある。そこから選ばれる理事は、バーナンキのような大学の経済学者から民間の金融業界を代表する者まで幅広い。この点で、日本の中央銀行、すなわち日銀の仕組みとは全く異なる。

 

金融政策の決定には、議会、政権、そして中央銀行が係わる。しかし、彼らは決して同じ土俵にいるわけではない。日本と異なり、アメリカでは三者が壮絶な駆け引きを演ずる。

 

グレートパニックに対しては、金融を安定化するための資金として、莫大な額の税金の投入が不可欠であった。それを可能にするためには、議会を説得しなければならない。政治家は常に有権者の顔色をうかがい、次の選挙を意識する。議会対策として、FRBは政権の財務省と一体とならねばならないが、セントラルバンカーであるFRBは、必ずしも政権の内枠ではない。

 

バーナンキはFRBの議長として、政治家、すなわち議会との駆け引きに多大なエネルギーを使った。また、政権である財務省との駆け引きも、これまた凄まじいものとなった。そこで行われた政策決定とは、まさに試行錯誤の連続であり、関係者間の予測にはそれぞれ間違いがあり、判断の遅れもあった。この点で、バーナンキも例外ではなかった。

 

金融危機はとりあえず乗り越えたが、まだ解決したわけではない。アメリカ経済の回復は遅く、欧州経済も同様である。アメリカが日本のようなデフレに陥る懸念はまだ残っている。FRBがこのまま、日銀が犯したようなデフレ転落への道(日銀化)を歩むのか、まだ結果は出ていない。

 

FRBは今後どのような金融政策を打ち出していくのであろうか。FBRは巨大な官僚組織であり、これまでもバーナンキの対応に非難を加える者がかなりいた。加えて、現代の金融政策がセントラルバンカーによって動かされることに気がついた政治家たちは、FBRをどのように監督、規制するのかということも考え始めている。

 

グレートパニックにより、これまでの銀行システムに基づいた金融規制がもはや時代遅れになったことが証明された。新たな金融規制制度の構築、規制権限を巡って、議会、政府、そして中央銀行との間で、激しい駆け引きが続いている。

 

 

この文章は、ビジネスネット書店「クリエイジ」の20101213日の書評として掲載したものです。<http://www.creage.ne.jp/>

 

 

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