『そろそろ、人工知能の真実を話そう』 ジャン・ガブリエル・ガナシア(著) 伊藤直子・他(訳) 20175月 早川書房

 

 

人工知能(AI)は既に将棋や囲碁で人間を打ち負かしている。そんなAIの技術が瞬く間に発展し、いずれ人間には制御不能な状況になってしまう。そして未来の世界では、AIが人間を支配するのではないか、という警告があちらこちらで出てきている。

 

その警告を発した人物が、かの天才宇宙物理学者のホーキング博士やマイクロソフトのビル・ゲーツとなると、多くの人々がSF小説の世界が現実のものになりそうだ信じても不思議はない。

 

AIが人間の制御を超え暴走し出すという将来の大転換を技術的特異点(シンギュラリティ)と呼ぶ、というところから本題が始まる。

 

シンギュラリティ仮説とは、これまでのマイクロプロセッサー技術の進歩が指数関数的な速度であったように、加速度的に発展するAIがある日突然暴走しだし、意志を持ったAIによって人間の運命が全く異なった世界に放り出されるという主張である(そういえば、マトリックスという映画があったが、そんな世界をいうのだろう)。

 

著者の議論は技術的にAIがどう進歩するかというものではない。シンギュラリティ仮説が本当に起こりうるのか、何故その様な仮説が出てくるのかについて、文化的・宗教的背景から論じている。

 

AIの発展が人類に幸福をもたらすという楽観論、逆に大きな禍をもたらすという悲観論、そしてどっちかよく分からないが、世の中の耳目を集めているのだから取りあえず騒ぎに入っておこうという中立論の三つに分類される。

 

文化的・宗教的背景から欧米では前者の二つが主をなすが、大方の日本人は三つ目である(お気楽なのかも知れないが八百万神を信じ、論理的思考に拘ることなく、文化的変化も容易に受け入れてきたという社会風土環境があるのだろう)。

 

結論から言えば、著者はシンギュラリティ仮説はほとんど起こりそうにないと考えており、AIというものがシンギュラリティという怪しげな神話とも取れる話で変質されてしまうことを批判している。

 

さかんにシンギュラリティ仮説をもってAIについて警告を発しているのは、あに図らんやAIの研究開発を推進するハイテクIT企業である。

 

一見矛盾するようなこの行動はどこから来るのだろうか。著者は、彼らの傲慢さ、あるいは宣伝、さらにはすでに国家の能力を超えて世界の情報システム(例えば生体認証、身分登録、暗号化など)を変えてきている彼らの政治的野心の表れと言う。

 

 

 

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