貿易赤字 (2014/1/29)
一昨日、財務省が発表した2013年の貿易収支は11兆4745億円の赤字との結果であった。ニュースを見ると、何となく日本経済が暗くなるようなイメージで捉えられているが、そもそも国内でモノを生産して、それを輸出することでカネを稼ぐという経済構造が過去のものになっている。
原発を推進したい甘利大臣は、原発が止まっていることでLNG輸入が増えた結果、1兆円を超える国富が消えている(海外に支払われている)とかねてから発言しているが、これは貿易赤字の本質ではない。確かに輸入金額の増加にLNGの輸入増の寄与はあるが、それ以上に輸出金額が減ってきている。2009年のリーマンショックによる世界経済の落ち込みは特異値であるが、輸出金額は2007年をピークに減少してきている。一方、輸入金額は横ばいから若干の増加傾向にある(LNG輸入が増えたのは震災のあった2011年以降の話である)。右下の図から分かるように、2012年の輸出額は対2007年比で23%減っているが、輸入額はほぼ同じである。
国に流入するカネは貿易だけではない。今や、貿易収支の黒字(ここ2年ほどは赤字ではあるが)よりも、所得収支の黒字の方が遙かに大きい。ここ数年で急に起きた現象ではない。2005年以降、所得収支は貿易収支の黒字を上回るようになり、それは完全に定着している。要は、日本企業が海外への直接投資を増やし、その利益(配当金や利子)の送金が増え続けた結果である。その傾向は過去30年間一貫している(左下図参照)。至極当たり前な話である。
日本から一方的にモノを輸出して、その代金を日本に持ち帰るというビジネスモデルは、まだ日本の生活水準が低かった時代の話である。第一に日本の賃金水準は高くなりすぎて、単なるモノの生産では中国を含めた途上国に勝てない。勝てない分野で競争しても意味がない。第二に、モノを売る以上、その国に対する経済貢献(現地生産)が求められる。そして、第三には、経済がグローバル化した今、マーケティング戦略は対象地域、対象国で異なるし、グローバルマーケットでの事業展開には多様な人材、つまり人材のグローバル化が必要である(つまり事業拠点が海外に出て行く)。日本の発想で、日本人だけで経営が成り立つのは国内市場に限定される。
日本の代表的な製造業と言えば自動車と電気製品(もっとも、パナソニックやソニーの栄光は過去のものになりつつあるが)であろうが、生産は完全に海外に依存している。トヨタ自動車はそれでもまだ頑張っているが、日産自動車の最重要生産拠点は途上国(現状でい言えば中国)であり、国内生産は縮小の一途にある。パナソニックの商品を買っても、高級品を除けば、その多くは海外で作られている。カメラとて同じ。インドネシア、マレーシア、中国製がほとんどである。製造業の付加価値は、生産拠点ではなく、開発、商品化、そしてマーケティングの段階で作られる。超優良企業の代名詞であるアップルの製品は、Designed in California, and assembled in Chinaである。
日本が老齢化し続けるなかで、もはや貿易立国は成り立たない。世界に投資することで、その利益を手にすることが成熟化した経済国の姿である。円安になったので国内生産へのシフトを期待する意見があるが、為替はその時々で揺れ動く。今円安だからといって、自動車会社が数百億円を投資して国内生産を強化すると思ったら大きな間違いである。企業にとって、為替の変動で利益が揺さぶられる事ほど大きなリスクはない。