『千年前の人類を襲った大温暖化-文明を崩壊させた気候大変動』 ブライアン・フェイガン著 東郷えりか訳 20089月 河出書房新社

 

 

CO2と地球温暖化問題に関する本は、少々食傷気味になるほど巷に溢れている。かのアル・ゴアが書いた地球温暖化への警告書「不都合な真実」がベストセラーとなる半面、現在の温暖化現象は温暖化ガスの排出とは関係ない、CO2削減など愚行である、といった反論書も結構出ている。

 

とりわけその議論が、地球温暖化によって北極海の氷が溶けたところで海面上昇が起こるわけではないといった一見科学的にも見えそうな話題に終始すると、なにやら、温暖化問題が海面の上昇問題に矮小化されてしまいかねない。

 

さてフェイガンはこの著書で、地球温暖化が人類にどのような影響を及ぼしてきたかということを、考古学的、歴史学的、気候学的な視点から切り込んでいる。

 

今から1000年ほど前、西暦800年から1300年にかけて現在のような温暖化の時期があった。これを中世温暖期と呼ぶ。欧州だけに目を向ければ湿潤で暖かい気候により農業生産が上がり、ゴシック様式の大聖堂が造られるなど文化が発展した時代であったが、じつは世界的には干ばつと洪水が頻繁に起きた時代でもあった。

 

干ばつと洪水の繰り返しで滅びた多くの文化があったという。北米インディアンのプエブロ族、ユカタン半島に大文明を築いたマヤ族、アンコール・ワットを造ったクメール族がその一例である。

 

一気に時代を近代にまで進めると、20世紀に入ってからも干ばつによる大飢饉と大量の餓死者が出ている。1907年の中国では2400万人が餓死し、194142年の干ばつでは300万人が死亡している。インドでは1967年に150万人が死んでいる。たかだか1度や2度の気温の変化がモンスーンの吹く場所を大きく移動させ、大干ばつと大洪水を引き起こすのだ。

 

当時と比べ現在は、人口が爆発的に増加、かつ都市への集中が極端に進んでおり、気候変動による干ばつが人類に及ぼす影響、というよりもリスクは格段に高まってきている。アフリカのサハラ以南、中国、インド、そしてアメリカ中西部がとりわけリスクの高い地域であり、その兆候はすでに現れている。

 

現在の温暖化が人為的に起きていることは明らかである。これをそのまま目をつぶって、何とかなるとやり過ごせるのか、あるいは大災害となってかつての北米インディアンやマヤ文明のように我々も滅びていかざるをえないのか。温暖化と干ばつとの因果関係は、これまであまり話題にも上らなかったが、日頃耳にするニュースを思い起こせば、確かに災害の片鱗は現れているのかも知れない。

 

 

この文章は、ビジネスネット書店「クリエイジ」の2009330日の書評として掲載したものです。<http://www.creage.ne.jp/>

 

 

 

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