揮発油税の暫定税率問題(2008/1/19

 

現在ガソリンにかかっている暫定税率の適用期間がこの3月末で切れることから、政府自民党は今の通常国会でこの暫定税率を継続するための租税特別措置法改正案を出している。これに対して、民主党は税率を本則に戻すべきという立場で、自民党と真っ向からぶつかっている。

 

しかし、どちらの主張も健全な議論になっていない。そこには本来の揮発油税のあるべき姿についての議論が無いまま、来年度の税収を確保したい政府と、そうはさせまいという野党との攻防になってしまった。挙げ句の果ては、町田官房長官が日本のガソリン価格は諸外国に比べて高くないというプレス説明を行うに及んだ。ここでは、道路財源としての目的税の是非が全くふれられていない。

 

この揮発油税が問題となったきっかけは、小泉元総理が在任中に特定財源である揮発油税(道路建設に限定して使う)を一般財源として使ってもよいのではないかと言ったことに遡る。そもそも、特定財源確保のための目的税という税制が不健全であることは言うまでもない。なぜならば、使途を決めて特定のものを対象に課税することから、税収が利権化することは明らかである。

 

すでに揮発油税の一般財源化の話が出たとたん、国交省は「道路予算に余りがあるはずもなく、一般会計に回す金などない」とその動きを牽制している。「確保してある金はしっかり道路建設に使わせてもらう。他人には渡さない」という姿勢である。これでは何のための道路公団の民営化(注)であったのかすら分からなくなってしまう。国交省の本音は、予算は余すことなくきれいに消化し、必要であろうが無かろうが、道路を作り続けるということである。

 

(注) もっとも、会社を株式上場したわけではないのだから、民営化ではない。中途半端な形で公団の株式会社化を行い、道路公団問題を幕引きしてしまったことがまさに問題である。結局、使いもしない高速道路を今後も作り続ける必要があるのかどうか、という議論はどこかに消えてしまった。

 

さて、一般財源化に何が問題なのかという点である。財務省にしてみれば、消費税の値上げもままならず、税収が伸びないなか、なんとしても税収を確保したいということである。しかし、税金を払うものの立場からすれば、一般財源化するならば、なぜ自動車、しかもガソリン自動車を運転するものだけがより多くの税金を払わなければならないのかという矛盾に突き当たる。そこには税の公平性などという議論はない。

 

自動車燃料にかかる税金は余りにも歪になりすぎている。ディーゼル車が使う軽油には、地方税としての軽油引取税(暫定税率32.1円/g)がかかる。ちなみに、国税としてかかる揮発油税の暫定税率は本則の2倍の48.6円/gであり、これに地方道路贈与税(暫定で5.2円/g)が併課される。つまり53.8円/gを負担する。さらに複雑なことに、PL自動車が使うLPガスにかかる石油ガス税の税率は175円/sである。このように同じ自動車燃料でありながら、燃料種によって税率が大きく異なるという歪んだ税体系になった背景には、軽油はトラックやバスの燃料として使われることが多いので、輸送事業者を優遇したという事情がある。PLガスは言うまでもなくタクシー事業者に対する優遇である。

 

道路建設の受益者は車を運転するためだから自動車燃料に課税するというのであれば、どのような燃料も同じ税率でなければならない。アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスの諸外国を見ても、軽油とガソリンの課税率が違うなどという国はない。ところが日本では、自動車燃料税については、国(国税)と地方(地方税)の奪い合い、運輸業界、タクシー業界、そして国交省や道路公団(今は地域別高速道路会社)の利権確保の争いが起きる。まさに税制を巡る魑魅魍魎の世界である。

 

結局のところ、今の国会では、本質論をなおざりにしたまま、税収の確保だけが論点になっている。民主党が現在の石油価格の高騰で燃料費に耐えられなくなっている事業者がいるので税率を本則に戻すべきと言えば、自民党は日本のガソリン価格は他の先進国と比べて高くはないと反論する。ついには、自民党の伊吹幹事長からは「民主党は期限切れでガソリン価格が安くなると言うが、地方に税金が入らず地方財政に穴が開けば、福祉や教育のお金を回さない限り必要な道路はできなくなる」という発言が飛び出してきた。これでは、道路建設が大前提であり、さもなくば福祉教育の予算を削るぞという恫喝同然ではないか。いずれも、うわべだけの議論に終始し、税の本質には全く触れていない。

 

このようになった原因は、これまで税全般にわたる制度の見直しを先送りにしてきたことにある。消費税の値上げ、法人税率の低減、証券税制の見直し、すべてが放置されたままである。その結果、既存の税収の取り合いという歪んだ世界に入ってしまった。

 

 

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