日本のメディア 裏取りしない情報の危うさ (2020/3/14)
先週3月11日の朝日新聞に、「貯金のルーブル、紙切れに」
モスクワ駐在員が語る現地の生活、と題する記事があった。その内容は、欧米のメディアが報じるものと概ね同じで、特にどうこう言うものではないが、一個所だけ、これ本当だろうかという部分があった。
「一方で、ルーブル安による物価の大幅な上昇は起きていないようだ。スーパーの品数は減っておらず、食料品などの値段が上がったともあまり感じないという。レストランも通常通り営業しているという。」(原文ママ)
少なくとも私の耳目に触れる情報とは全く違う。
例えば、3月5日のエコノミスト誌(The Economist)が読者に提供したウェビナー/1では、モスクワ駐在の編集者が、急激なインフレに陥ったことで、人々がパニック買いに走った事を伝えた。さらに、食料品以外の値段は40〜50%上がったとも伝えた。
ロシア連邦・タタールスタン共和国の首都カザンに住む森翔吾というUチューバーが面白い話を流している。
彼を含めて、手持ちのルーブルの下落を回避するために、高価で価値の安定している物に交換しようと、日本の自動車を買いに向かった人が結構多いという。トヨタのディーラーでは1日に「トヨタ・RAV4」が30台も売れたという。彼はスバルのフォレスターを380万ルーブルで買ったが、その数日後に600万ルーブルに値上がりしたという。(旧共産国のようにハイパーインフレを経験した国では、人々は自国貨幣を信用していないので、インフレを感じると直ぐにものに替えようとして、パニック買いに走る)
時事通信/2は、「ロシア連邦統計局が3月9日発表した2月の消費者物価指数は、前年同月比9.15%上昇であった」と報じた。ロシアがウクライナ侵攻を開始したのが2月24日だから、それ以降のインフレがこの数字より大きいことは想像に難くない。
ブルームバーグ(Bloomberg)も3月10日にロシアのインフレについて、次のように報道した——−2月下旬に軍事侵攻が始まり、3月4日までの1週間で国内新車価格は17%強、テレビも15%急騰。一部の薬や野菜類は5〜7%値上がりした。
このように、状況は朝日新聞の記事と異なる。朝日の記事には、「日系企業で働くモスクワ駐在の日本人男性に現地の様子を聞いた」とあるので、電話インタビューでもしたのだろうか。一人の意見だけを聞いて、これが現実だと判断することの危うさである。
個人的には朝日の記事は比較的よく分析を加えており、質は保っているとは思っているが、それでも欧米のメディアと比べると詰めの甘さがある。一番の原因は、日本のメディアが現地の情報を直接取っていないことだろう。
1/
Ukraine
at war: what happens next? (2022/3/4 03:00 PM London)
2/
JIJI.COM
(2022/3/10)