老後2000万円の大騒動 (2019/6/13)
麻生金融担当相の発言が元で、「老後2000万円」を巡る年金の大騒動が起きてしまった。
この方、元々、余り物事を考えもせずに喋る傾向がある。今回も同じである。この発言を野党から叩かれた途端、麻生氏は自身の「老後2000万円」発言の元となった金融庁の報告書を正式なものとして受け取らないなと言い出し、騒動の火にさらに油を注ぐ結果を招いた。
参院選を目前に何とか自民党を叩きたいという野党の思惑と、選挙を前に年金問題を論点にしたくないという政府自民党の思惑があり、この騒ぎ、国会の場ばかりでなく、マスコミを巻き込んで拡大した。
野党が揚げ足を取った「100年安心年金」という言葉に注目が集まり、「2000万円などという大金を自己責任で創り出せとは何事だ」、「政府は年金が安心といっていたが、これでは詐欺ではないか」と、話がとんでもないところに行ってしまった。
そもそも、年金制度改革関連法成立時に政府が言った「100年安心年金」とは、持続可能な年金制度を確立させるということであり、国が老後の生活をまるごと保証するなどとはどこにも書いてない。受給額でいえば、「もらえる年金はモデル世帯で現役世代の手取り収入の50%を確保」、つまり所得代替率の目安を約束しただけである。
これは、老後も現役世代の手取り収入を前提とした生活をしたいのならば、不足分は自分で何とかしなさいという話でしかない。
日本の年金制度の所得代替率(現状で6割くらい、将来的に5割くらい)が、福祉の充実したドイツやスウェーデンに比べて低いというわけではない。また、年金水準の切り下げや年金支給額の物価スライド調整も欧米では珍しくもない(このあたりの話は、朝日新聞が6月13日の朝刊で取り上げている)。
年金制度が賦課方式を取る以上、人口の高齢化が進めば年金の切り下げが起こるのは当然である(年金を受け取る高齢者の数が増え、それを支える若者の数が減っていくのだから、簡単な算数である)。
前述の2000万円という話も、その数字は別としても、老後資金の準備の必要性は国民にはわかっていた話である。新聞やウェブには、老後を考えればどの程度の蓄えが必要なのかといった相談や試算はよく見られる。
年金支給額をもっと引き上げろ、老後をすべて国が面倒見ろというのであれば、その原資となる税金を上げるしかない。
日本人の税負担率(含む、年金・保険料)は、家族構成によって異なるが30%ほどである。一方、スウェーデンやドイツは40〜50%である。
さらに、ものを買ったときには消費税(欧州ではVAT)を払わなければならない。日本では、この秋に8%を2%上げて10%にすることですら反対の声が大きいが、ドイツの標準税率は19%、スウェーデンは25%である(ともに軽減税率制度はある)。
情緒的に2000万円を騒ぐよりも、老後を国に丸投げにするのか、ある程度は自己責任で準備するのか、税金の支払にまで遡って議論した方がよほど建設的である。