感染症予防とマスクの効用 (2020/2/4

 

 

中国では新型コロナウイルスが蔓延し続け、日本国内においても感染者数が増えてきている。未だこのウイルスに対するワクチンや治療薬がない事から、政府を含めて皆が神経質になっている。連日、ニュースでは新感染症絡みの話が持ちきりである。

 

 この騒ぎで、医療関係者は感染予防のための「手洗い」、「マスクの着用」、「外出から戻った際のうがい」の励行を勧めている。どれも決定的な方策ではないが、幾つかの防御手段を重ねることで感染のリスクを下げる事に繋がる。

 

 そんななか、評論家を含めていろいろな発言があちこちに見られる。先月末にウェブで見つけた「ダイヤモンドオンライン」の「新型肺炎リスクが高まっても、マスクをしない日本人か多い理由」と題した、百年コンサルティング代表の鈴木さんという方の記事である。

 

彼はマスクをしないことの不合理性を確率論で説明しており、要約すると次のようなものになる。

 

 

l  交通事故合う確率とシートベルトの着用の合理性については、

 

1. 日本で交通事故に遭う確率は人口の0.3%程度であり、事故に遭った場合の死亡確率は1%と計算できる(令和元年の実績)。

 

2. 10年間で合計すればその10倍の3%の人が事故に遭遇している。

 

3. ゆえに交通事故に遭う「万が一」はそれなりに現実味がある。

 

4. その結果、シートベルトの着用率が高くなる。

 

 

l  感染症については、20022003年に香港で流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)を例に取り、

 

1. 香港を中心に8096人が感染し、774人が死亡したとされる。

 

2. 香港の人口は700万人なので感染率は交通事故ほど高くなく0.1%程度と見積もられる。

 

3. SARSは一度発病すると死亡率は10%と高い。

 

4. 当時の香港では自動車事故で死ぬリスクより、SARSで死ぬリスクの方が高かった。

 

 

l  結論:今回の新型肺炎が今後の拡大することを考えれば、SARSと同程度の心構えが必要である。したがって、未だマスクをしていない日本人が多いというのは経済合理的に行動していない。

 

 

この論理構成は本当に正しいだろうか?幾つかおかしな点がある。

 

交通事故に遭うリスクを10年では年0.3%×10年で3%になると言っているが、感染症と比較するのであればこれは恣意的に数字を大きく見せているにすぎない。

 

なぜならばSARSを含めて感染症の発生から蔓延、そして終息するまでの期間は概ね1年未満である。今回の新型感染症についても、医療関係者はピークアウトするのに向こう数ヶ月くらいかかるであろうと述べており、10年間のリスクで評価する根拠がない。

 

第二に、交通事故に遭うリスクとシートベルトの着用率を結びつけているが、これもおかしい。

 

そもそもシートベルトの着用は死亡に繋がる事故にあった際、その衝撃を軽減するためである。

 

警察庁のデータによれば、平成26年中のシートベルト非着用者の致死率は着用者の14倍以上となっている。つまり、シートベルトさえしていれば、死ぬはずの命が93%の確率で助かっていたということになる。

 

シートベルトの利用は、死亡事故で死ぬ確率を下げるための手段であり、交通事故に遭う確率を下げるためのものではない。

 

第三に感染症のリスクの推論については、マスクの着用がどの程度のリスク低減に繋がるかという点が無視されている。

 

マスクがウイルスを除去できるかといえば、これはノーである。ウイルスの大きさはマスクの目より遙かに小さく、ウイルス自体の吸入を阻止することはできない(ただし、空気中に飛散しているウイルスを含んだ飛沫の一部を捉えることは否定しない)。そもそもマスクをすることは、周りへのくしゃみや唾の飛散を防ぐためである。いわゆる「咳・くしゃみエチケット」の意味合いが強い。

 

というわけで、私には鈴木氏の確率を使ったリスク回避論がどうも的外れに見える。

 

と言っても、私もマスクの使用を否定するものではないし、使った方がよいと思っている。

 

世界保健機構(WHO)が推奨するように、感染症予防の要は「洗浄剤か石鹸を使ったこまめな手洗い」と「発熱や咳のある人と濃厚接触しない」である。これに日本の医療関係者が言うように「マスクの使用」や「うがいの励行」が加わる。

 

いずれの感染症防御策も、鈴木氏が比較引用したシートベルト着用のような絶対的な効果が見込めるわけではない。感染症予防の肝は幾つかの防御策を講ずる事を通して、感染のリスクを少しでも下げることである。

 

外出時のマスクの利用は推奨するが、それが絶対的な効果をもたらすものではないし、過信してもいけない。

 

 

 

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