五輪誘致「コンサルタント料」 (2106/5/20)
事の発端は、フランス検察当局による汚職捜査である。その嫌疑とは、2020年東京パラリンピック招致委員会からシンガポールの口座に多額の資金が振り込まれたというものである。そして、シンガポール汚職捜査局は、この疑惑についてフランス当局と協力して捜査していることを明らかにした。
これに対して、日本オリンピック委員会(JOC)の竹田会長は、「コンサルタント料であり、問題のない手続き」と述べた。さてさて、そんな子供だましの説明が通りますかな。事実関係を見てみよう。
これは、英ガーディアン誌の記事である。シンガポールの口座名義はイアン・タン氏が代表を務める「ブラックタイディングス」。ガーディアン誌は、このタン氏は国際陸上競技連盟のラミン・ディアク前会長の息子、パパマッサタ氏と関係が近いと指摘している。この送金がセネガル人で国際オリンピック委員会(IOC)委員を務め、アフリカ表の取りまとめに影響力があったディアク氏側に流れたと報じた。要は、この金は買収工作資金であり、贈収賄の疑いありというものである。
お次に、毎日新聞社によれば、「ブラックタイディングス」の所在地は、老朽化した公営住宅の一室という。この公営住宅は一般庶民の住宅のような雰囲気で、社名表示はなく、企業活動の実態などはうかがい知れないという。そしてこの建物、老朽化が激しく近く取り壊されるという(毎日新聞2016年5月14日)。会社そのものが、相当いかがわしい。
招致委員会は、タン氏に2億3000万円払ったことを認め、パパマッサタ氏との関係は知るよしもなかったと述べている。また、広告代理店の電通がタン氏にお墨付きを与えたとのことである(毎日新聞2016年5月17日)。しかし、老朽アパートの一室に事務所を置く、このいかがわしい人物に2億3000万円もの金を使途も分からずに渡すとは、招致委員会はなかなか豪気な組織である。
国際ビジネスの世界では、汚職追放が大きな課題であり、国際機関や日本政府もその徹底に相当力を入れている。その結果、贈賄を行った企業が課徴金を課せられ、ODAの世界では解散に追い込まれた会社もある。
ところが、スポーツの世界だけは、汚職に対する倫理観がないと見える。この手の贈収賄疑惑は珍しくない。昨年は、スイスの司法当局が国際サッカー連盟の幹部を逮捕した。日本では1998年の長野オリンピックでも、IOC委員と事務局員に対する豪勢な接待を行い、その当時の経理書類は直ぐに廃棄されてしまった(要は証拠の隠蔽である)。そして、オリンピックが終わり、招致委員会は解散。全ては闇の中に葬られた。
ちなみに、IOCは国際機関ではない。単なる非営利団体(NGO)に過ぎない。それがゆえに、汚職疑惑のスキャンダルは枚挙にいとまがない。
東京オリンピック、巷では大騒ぎをする向きもあるが、国立競技場のスキャンダル、オリンピック・エンブレムの盗作疑惑、そして今度は贈収賄疑惑である。それほどまでして、東京に誘致する価値があったのかね、と思っている人も多かろう。
そして、もう一つ、今回の贈収賄疑惑に電通の名前が出てきた。そういえば、オリンピック・エンブレムの盗作疑惑でも、審査過程のきな臭さで、電通関係者の名前が出ていましたね。