軽すぎる社説(2012.3.6)
3月3日付けの読売新聞に、「火力燃料高騰 原発再稼働で『電力不況』防げ」という社説が載っていた。要点はこうである。
l 全国で54基の原発のうち、動いているのはわずか2基にとどまる。あと2か月ほどですべての原発が止まる非常事態となる。
l 原発ゼロのまま暑い夏を迎えると、危機的な電力不足が予想される。
l 再稼働に対する地元自治体の理解を得るカギは、原発の安全・安心について、政府が責任を持って保証することにある。野田首相は再稼働に向け、一刻も早く、先頭に立って、地元の説得を始めるべきである。
l 産業界には、電力供給不安とコスト上昇のダブルパンチである。
l 電力不足によって企業が生産拠点の海外移転を一段と進めれば、国内の産業空洞化が加速する。
l 日本の景気は足踏み状態にある。政府は、電力不足が景気の足を引っ張る「電力不況」を防止すべき重い責任を負っている
と、まあこんな流れであるが、要は、原発をこのまま止め続けると、電力不足と電気料金の値上げによって企業が海外に逃げ出し、深刻な不況に陥る。だから、政府は一刻も早く原発の再稼働に努力せよというものである。
しかし、この論理、あまりにも短絡的である。原発の再稼働には、地元の原子力に対する非常なる不信感がある。だからこそ、地元は再稼働に慎重なのである。経産省は、ストレステストを実施し、その結果が発表され始めたが、ストレステストは合格であっても、地元はそれだけでは安全という保証にならないと、懐疑的な見方をしている。そんな状況下で、いくら首相が地元の説得を行っても、信用されないのは今更言うまでも無かろう。読売にご指名された野田首相にしても、説得とはいうものの、「本当に安全だろうか」と、お悩みになることだろう。
枝野経産相が再稼働に慎重な姿勢を示してきた裏には、フクシマ事故で露見した東電のいい加減さと、事故対応を巡って東電と政府が見せつけた迷走の数々がある。しかもそのさなか、政府が炉心溶融の発表を恣意的に遅らせたり、原子力安全・保安院が、実は原子力推進の旗振りをしていたりという、まさに背任行為まで暴露され、これまでの原発神話に秘められていた嘘と誤魔化しが白日の下にさらされてしまった。そんな経緯を無視して、産業界が困るので急いで原発を再稼働せよといったところで、原発から遠く離れた東京に住む人ならばともかく、地元が簡単に受け入れるはずがない。
そもそも、産業の空洞化は電力不足で始まったものではない。経済の成熟化が進めば、産業構造の変化が起きるのは当たり前である。とりわけこの一年間の急激な円高は輸出産業に大きな打撃を与えた。もう一つは、企業に対する課税の高さである。これまで先進国で法人税率が高い代表格としてあげられてきた日本と米国ではあるが、この2月、オバマ大統領は最高法人税率を35%から28%に引き下げることを公表した。残されたのは日本だけである。
電力不足と電気料金値上げがそれに追い打ちをかけたことは認めるが、産業空洞化の根本的な原因ではない。
いずれにせよ、読売新聞の論説にはこの手の短絡的な論調が多く、正直なところ、あまりにも軽いものが目に付く。大手新聞といえば、朝日と読売が両横綱であろうが、少なくとも、朝日の論説は相当しっかりしているし、論陣を張っていると思わせる。残念ながら、読売にはそれがない。書き手の資質の問題なのか、社風なのか、私には分かりかねる。