『ワイルドサイドをほっつき歩け --ハマータウンのおっさんたち』 ブレディーみかこ 20206 筑摩書房

 

 

前作『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』で、「ブレディーみかこ」ファンが一気に増えたのではなかろうか。前回は子供が主役であったが、今回はおっさん、しかも50から60代の、いわば世間から一番疎外されている、いやいや下手をすれば蔑視の対象にもなりかねない、そう、まさに「おっさん達」が主人公である。

 

みかこさんの軽妙洒脱な文章が続く。そこにはユーモアの中に何やら物悲しさも滲んでいる。ここに登場するおっさん達が属する白人労働者階級は、エリートに代表される上流社会、大企業の管理職や専門職と言ったミドルクラスとは対照的な、有り体に言えばそれほど金銭的に恵まれた層ではない。が、彼は彼らの道徳観や信条を持っている。日本風に言えば、義理と人情の塊で生きている下町の職人さんに近い。

 

タダ面白いだけではない。この本には、英国の社会問題に対する鋭い批判が込められている。英国はこの十年、二十年、日本より遙かに高い経済成長率を保ってきたが、その反映が必ずしも労働者階級(彼女の言葉で言えば、地べたの人達)には廻ってこなかったこと、保守党政権の下で福祉が大幅に切り捨てられてきたことが分かる。彼女に言わせれば、「ゆりかごから墓場まで」を標榜する英国の福祉制度は遠い昔話になってしまった。

 

後半は内容がガラッと変わって、おっさん達の小話から世代間の違い(とお酒)を軸にした社会学的な分析に変わる。彼女の鋭い洞察力(と文章力)には唸らされる。彼女のこの分析はほぼ日本社会にも当てはまるし、つらつら読んでいくと、ベビーブーマーの私には身につまされるものがある。

 

 

 

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