『ウンコはどこから来て、どこへ行くのか—人糞地理学ことはじめ』 湯澤規子 202010月 筑摩書房

 

 

子供は「ウンチ」が好きである。そう、世の中には、教材として「うんこ学園・うんこドリルシリーズ」なるものがある。これは小学生向けであり、さすがに中学以上を対象にしたものはない。大人になるに従って、「ウンコ」は汚いもの、嫌悪するものに変わっていく。

 

著者はれっきとした大学教授である。この本は、ウンコを歴史的変遷(きっと歴史学と言ってもよいのだろう)、社会学、そして公衆衛生学、そして副題にもあるように地理学的アプローチから纏めた肩肘を張らない学術論である。

 

今では汚物にされてしまったウンコであるが、私は日本古代神話に糞尿や吐瀉物から生まれた神様がいたということを初めて知った。平安時代には、悪霊や魔物から子供を守るため、幼名に不浄の「屎」という字を入れたという。

 

日本の歴史は農耕民族の歴史である。つまり、農業生産と下肥は切っても切れない関係であった。何せ近世では、ウンコは有価で取引される金肥として自然環境の中で循環した。そんなエコサイクルがあったがゆえに、日本では、西洋で猛威を振るったコレラやペストと言った疫病が蔓延することは少なかった。

 

そう言えば、私が子供の頃、廻りの畑には野壺が当たり前のようにあった。昭和20年代には、くみ取った糞尿を木の樽に入れて、それを牛車に乗せて回収していたことを子供心に覚えている。ウンコを巡る風景が、私の頭の中を走馬灯のように駆け巡っていく。

 

人が生きている限り「食べること」と「ウンコをすること」を繰り返す。その行為は外の世界に開かれ、様々な「いのち」の受け渡しの輪の中で位置づけられる。そして人糞地理学とは人間学と環境学を兼ね合わせたものであるというのが、著者の結びの言葉である。

 

ウンコとは、まことに奥が深い。

 

 

 

 

 

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