VWスキャンダル (2015/9/27)

 

 

フォルクスワーゲン(VW)がディーゼルエンジン搭載車の排ガス認定を取る際に、米国EPA(環境省)の適合基準を誤魔化していたという記事は、近年ちょっとお目に掛かることのなかった大きなスキャンダルとなった。

 

自動車会社が規制当局との間でもめ事を起こすことはそれほど珍しい話ではない。最近では、高田工業が作ったインフレータの不良でエアーバッグが異常作動した問題、トヨタのレクサスがブレーキの異常作動を起こした問題があった。いずれも「事故」と言えるものであり、意図的な誤魔化しではなかった。

 

これに対して、VWの問題は排ガス測定を誤魔化すためのソフトウェアを仕込んでいたという詐欺行為が致命的である。VWと似たケースとしては、現代・起亜自動車が米国で起こした燃費の詐称事件があった。

 

少なくとも日本では、VWを含めたドイツ車には堅実なイメージがある。多分、世界的にもそれは当てはまるだろう。逆の見方をすれば、「ふーん、ドイツ車が規制値を誤魔化していたのか」という驚きでもある。

 

日本の一般新聞紙や自動車関係のメディアは今回の問題にそれほど踏み込んでいないが、海外のメディアはもう少し深い分析をしている。一つは、排ガス中の窒素酸化物(NOx)規制を巡る欧州と米国の考え方の違いである。欧州は地球温暖化現象への対策を重視しており、自動車会社にとって二酸化炭素の排出量、すなわち燃費の向上が大きな問題である。一方、米国ではスモッグの発生原因となるNOx、そして肺がんの原因となるパティキュレート(ディーゼルの黒煙)への対策が重視される。

 

高圧高温で燃料を燃やすディーゼルエンジンは、燃費でガソリンエンジンより優れる。半面、高温で燃焼させるためにNOxの発生が増え、その対策はガソリンエンジンより難しい。つまり、自動車会社がディーゼルエンジンを開発する上で、燃費とNOxはトレードオフの関係にある。ホンダやマツダが米国市場でディーゼルエンジンを導入できない理由は、NOx規制の達成が技術的な障害と言われる。

 

欧州では伝統的に燃費に優れるディーゼルエンジンが乗用車で普通に使われてきた。ドイツ、フランス、イギリスでは半数の乗用車がディーゼルエンジンを搭載している。こういった経緯があり、クリーンエンジン(地球温暖化を含めた環境対策)開発の方向として、燃費に優れるディーゼルエンジンが重視された。しかし、NOx規制は緩いものとなった。

 

この排ガス規制に対する考え方にだけでなく、自動車会社が規制適合の認証を受ける際の制度的仕組みが改めて問題となった。

 

欧州では、自動車は第三者機関を使って排ガス性能のデータを取り、それに基づいて政府が適合を認定する。ところがその第三者機関は自動車会社の影響下にある。しかも、燃費を測定する際に、車からオーディオを取り外して車体を軽くし、走行抵抗を減らすためにバックミラーを取り外し、車体の継ぎ目や窓枠の段差を目張りする。さらには測定に際して、潤滑油も特別のものを使うといった行為が行われている。当然、燃費の公称値は良いが、実際に買った車の燃費はそれには全く及ばないという現象が起きる。

 

米国でもEPAの認定は自動車会社が提出するデータに基づいて行われるが、EPAはこれとは別に市販車の抜き取り検査を行い、自動車会社のデータを検証する。もし、不正が発見されれば、莫大な罰則金が課せられる。今回のVWで言えば、最高37500ドル/台×482000台で総額180億ドル(約22000億円)の罰金となる可能性がある(ただし、これまでの事例からして、恐らく減額されると見られるが)。

 

恐らく、今後、欧州では排ガス規制制度に係る議論が巻き起こるだろう。目下の所、2021年までに達成する二酸化炭素排出量95g/kmが自動車会社にとって最大の目標であるが、NOxと同様にパティキュレート問題を捨て置いてよいのかという疑念に目が向けられる。既にロンドンやパリでは、その規制強化の議論が始まっている。

 

もしディーゼルがクリーンエンジンの切り札でなくなれば、欧州の自動車会社は抜本的な技術開発戦略の見直しに迫られる。ガソリンエンジンへの回帰、電気自動車の普及促進、はたまた出遅れたハイブリッド自動車技術の取り込みが俎上に上ることになる。

 

 

 

 

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