発送電分離と原子力安全・保安院の独立(2011/5/21

 

 

菅首相は、今回の福島第一原子力発電所事故を受けて、現在の電力産業構造の抜本的な改革と規制制度の改革を言及した。要は、今の地域独占、垂直統合に基づく9電力会社の送電部門の事業分離と経済産業省の内部に置かれている原子力安全・保安院の分離独立である。

 

これは当然のことである。先進国でこのような旧態依然とした電気事業体制と規制制度を維持しているのは日本だけである。10年ほど前に日本でも電力自由化が議論された。国際的に見て高すぎる日本の電気料金がその発端であった。それに対し、電力会社は、発送電を分離すれば安定的かつ信頼できる電力供給は保証できなくなると主張し、政治的な力を最大限使うことで、地域独占、垂直統合という彼らの事業体制を守った。

 

確かに、自由化の議論を通して、形の上では、2007年には500kW以上の高圧需要家までが自由化対象となったが、新規事業者のシェアは1%台に過ぎず、何も変わらなかった。送電網を握る巨大な電力会社に対して、新規事業者は赤子でしかなかった。

   (注)電力総需要に占める特定規模電気事業者のシェアは1.48%(平成19年)。

 

しかし、今回の福島第一原発の事故は、閉鎖的な経営に固執する電力会社だけに電力供給を依存することの危険性を証明した。今年の夏に予想される電力不足は、産業活動に大きく制約を加えることになる。東京の中心部を除いて、東電管内の輪番停電が再開される。安定供給などと言う電力会社の言葉は、一気に吹き飛んでしまった。多様性を否定し、代替案を持たない社会システムがひとたび問題を起こすと、その代償がいかに高くつくかを示すものとなった。

 

かつての自民党政権下では、電力会社の経営を抜本的に揺るがすこのような議論は政治的に押さえられてしまったが、菅政権の下で、原点に戻った議論が進められることを期待する。このような電力構造改革の議論は、きわめて政治的な駆け引きとなるが、特定の業界の既得権益を壊し、新しい社会の仕組みを作るという意味で、今まさに、絶好の機会である。

 

 

 

 

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