ウクライナの反撃 (2023/6/12)
ゼレンスキー大統領はウクライナの反撃が始まったことを公表したが、詳細な説明はない。反撃が始まった今の段階で手の内を見せることはない。様々なニュースを見ても、情報は断片的である。ウクライナ軍が取り戻した地域がある一方、苦戦している場所もあると伝えられるにとどまる。
マスメディアには、この反撃で目に見える成果が出ることが、西側からの継続的な支援に大きく影響するという見方がある。
米国はバイデン政権下で総額376億ドル(約5兆2600億円)の支援1/を行っている。しかし、来年の大統領選挙で共和党が勝利することになると状況は変わる(もし、トランプが返り咲けば、彼はウクライナ問題から手を引くだろう)。EUでも、ドイツはロシアと正面対決することは避けようとしているし、旧東側加盟国の間でもポーランドとハンガリーのようにロシアに対するスタンスは大きく違う。
EU諸国やNATOが今後どの程度ウクライナ支援にコミットするのか、米国がいつまで多額の援助を続けられるのか、そしてどのような形で停戦を探るのかはわからない。昨年のロシア侵攻以前の状態に戻すことを条件とするのか、2014年にロシアが領土化したクリミア半島も取り戻すのか、未だ何も見えない。
唯一明らかな点は、プーチンにとって力による現状変更は当たり前であり、相手に譲歩するなどという考えは毛頭ない。
彼が国際社会を見くびるには理由がある。ロシアが軍事力で2008年にジョージアから南オセチアを分離し、2014年にウクライナからのクリミア半島を分離合併した際に、国際社会からの非難はあったが、それ以上の制裁はなかった。
中国はウクライナとロシアの間に入り、取りあえず停戦を提案したかったようである。ロシアにとって、これは好都合である。すでに兵器と弾薬の供給に限界が出始めており、取りあえず休戦し、しっかり力を蓄えて再び戦争を始めればよい。
ウクライナにとってこれは論外な条件である。国土をこれだけ蹂躙され、多くの民間人の死傷者を出して、中途半端な停戦はあり得ない。基本的に、プーチンにこの戦争が失敗であった事を認めさせなければ、彼は再び同じ事を始める。それを防ぐには、西側がウクライナを長期的に支援する以外に方法はない。
ウクライナが停戦にこぎ着けた後、どのようにウクライナの安全保障を担保するのか、鍵は米国とNATOの係わり方にかかっている。政治経済的にはウクライナがEUに加盟し、そして軍事的にはNATOへの加盟が難しくとも、米国と西側による二国間の安全保障を得ることだろう。さもなければ、プーチンは再び同じ戦争を繰り返し、ウクライナ全土を手にしようという欲望を諦めることはない。
この点で、ウクライナだけでなく西側には大きな失敗がある。それは、ウクライナ2/がソ連時代に保有した核兵器を放棄(ロシアに移転)することで、米英露の三カ国が安全保障を与えることを約束した1994年のブダペスト協定である。しかしこの協定は、2022年にロシアがウクライナに侵攻したことで破棄された。逆説的であるが、もしウクライナが核兵器を保持し続けていれば、ロシアの侵略はなかっただろう。
日本人には、この辺りの感覚は理解できないだろう。日本のメディアにはまず停戦して平和をと叫ぶ声があるが、ウクライナにとっては目先の停戦ではなく、如何に恒久的に自分達の命の保障を確保するかである。
一方、プーチンは兵隊の死など歯牙にもかけない。これまでに10万人ともそれを超えるとも言われるロシア軍の戦死者は、彼にとっては己の野望のために散って行った駒でしかない。だからこそ、今の戦況を立て直すために「愛国者よ、祖国のために志願兵となろう」と国中にポスターを貼りまくっている。彼が唯一気にするとすれば、戦死者の増大により国内で反プーチンの動きが起きることである。
1/ CNN
2023.05.09 Tue posted at 15:37 JST
2/ 他に、ベラルーシとカザフスタンが加わる。