朝日新聞の5月10日付論説『英国に見る「大陸との距離感」』 (2015/5/11)
正しくは論説ではない。特別編集委員の冨永格氏の随筆的な記事と言った方が良いであろう。論点は幾つかあるが、その一つは、英国がEUからからの離脱を試みることは良いことではないというものである。
まずは、今回の英国議会選挙の結果である。当初の予想とは裏腹に保守党が過半数を取り、労働党は敗退した。加えて英国独立党の得票が12%を超えたことで、英国がEUから離脱するために国民投票を実施するという話が現実味を帯びてきた。
冨永氏の意見は、EUからの離脱は英国が取るべき路ではないというものである。それを「英国がEUを出れば、外資は大陸に逃げ、国内経済は深手を負うだろう。内側にいればこそ、首脳や閣僚が定期的に顔を合わせ、個人的な関係を築ける、欧州の進路にも関われるのだ」という言葉で表現している。
つまるところ、経済的な損得を考えれば、EUから離れることは英国に取って損になる。問題があるならば内部に残って、改革に力を注ぐのが筋でしょう、という話である。非常に無難、かつ一見良識的な意見である。
では、EUが抱える問題とこれまで英国が何を選択してきたか、ここで振り返ってみよう。
英国はEUには加盟しているが、ユーロには入っていない。それは、国として金融政策を放棄することはできないという、大きな判断があったからである。この判断は間違っていなかった。ユーロの最大のアキレス腱は、余りにも経済状況が異なる国々がユーロにぶら下がった事である。
英国は、ギリシャの財政破綻に始まり、その後のスペインやイタリアに広がったユーロ危機に直接巻き込まれることはなかった。結局、ドイツ一国がユーロ危機を後始末するはめとなった。一国の政府にとって、国の経済運営を行う上で、財政政策と金融政策の二つは大きな武器である。その一つを捨てることには、よほどの覚悟がいる。(ただし、弱小国家にとっては逆に都合が良い。ギリシャのように自国の経済が弱い国は、ユーロに入ればドイツやフランスの懐具合に依存できる)
もう一つ、英国がEU加盟で問題視しているのはEU議会の存在である。EUは連邦国家ではない。あくまでも複数の欧州国家が集まった経済的な共同体であることを土台にしている。この点で、EU議会の権限が個別の国にとって政治的な過干渉となってきているというのが、EU離脱派の意見である。
英国がEUに留まるのか、あるいは離脱するのかは、国としてどのような有り様を志向するかという、極めて高度な政治判断である。冨永氏が言うような簡単、かつ綺麗事の話ではない。
もう一つ私の意見。連合王国(つまり英国のことです)自体、同じ問題を抱えている。2014年9月に英国からの離脱を決めるスコットランドの国民投票が行われた。今回は、かろうじて英国への残留を決めたが、次はどうなるか分からない。そこで、もう一度冨永氏の言葉を拝借して、『スコットランドに見る「英国との距離感」』を論じてみよう。
「スコットランドが英国を出れば、資本は英国に逃げ、スコットランド経済は深手を負うだろう。内側にいればこそ、スコットランド議会と英国議会が定期的に顔を合わせ、個人的な関係を築ける、英国の進路にも関われるのだ」
他国の政治的、経済的状況が理解できないまま、お気楽な事を言っていられる「特別編集委員」って、良い身分ですね。