国立大学の授業料値上げ (2024/6/26)
東大が最大10万程度の学費値上げを検討していること対して、学内から反対の声が上がった、という新聞記事があった1/。
反対の声を上げた学生は、今でも食費や交通費を削る生活で、1日中図書館にいる日は、 1食は弁当を持参し、1食はコンビニのおにぎり一つにしているという。彼女は、学費の値上げが家族の負担に繋がること心配する。
東大の学生には裕福な家庭が多いことはデータから明らかである。少々古いが、東大学生委員会が行った調査2/では、世帯収入が950万円以上の家庭が全体の55.5%、さらに1050万円以上の家庭が33%を占める。つまり全体の三分の一は年収1050万円を超える。一方、世帯収入が450万円未満の者は10.8%にとどまる。
では世帯収入が450万円未満の学生に目を向けてみよう。この階層で、奨学金があるので生活が成り立っていると回答した学生は51.6%、つまり過半は奨学金がなければ生活が成り立たない。
1975年度(昭和50年度)以降の国立大学の学費の推移を見ると、2年ごとに値上げが行われてきた。1975年度入学時に年間3万6000円であった学費は2005年度で53万5800円まで上がった(その後据え置いたままになっている)3/。50年も前に大学を出た私の目からすれば、国立大学も随分と高くなったものだ。
そもそも国立大学の役割とは何だろう。国立大学協会の説明を引用すれば、高度な高等教育の提供、均等な教育機会の提供と人材育成、国あるいは地域の社会・経済・産業・文化・医療・福祉の拠点の提供と言ったところだろうか。つまり国の礎を造り、人作りをするための機関である。だからこそ、国立大学とは、経済的な負担を軽くし、能力さえあれば誰でも進むことが出来る高等教育機関であるべきであろう。
東大の学生は裕福な家庭が多いと言うが、地方ではそうはいかない。地方で地元の国立大学に行く一番の理由は経済的なものと考えて良い。家庭の事情を考えれば、とても東京の大学に行く余裕がない人は少なくない。
私は、国立大学の学費はもっと安くするべきと思っている。東大が学費値上げを検討する理由は、運営資金が足りないからである。これは、これまで政府が国立大学への交付金を削り続けてきたことに起因する。現在不足している資金は、国が予算を増やして手当すべきだろう。米百俵の精神ではないが、政府が教育費をケチってなんとする。
冒頭の新聞記事に、翻訳家のマライ・メントラインさんがこんなコメントを書いている——そもそも今の政治の方針が「社会支配層の固定化」つまり新・貴族層の構築であり、彼らの子孫だけが高レベルの教育を受けられるように仕向けている。
言葉を換えれば、今の政治は、「貧乏人に大学教育は贅沢だ」と言っているのである。
1/
朝日新聞デジタル(2024/6/23)
2/
回答者のう24%は世帯収入を知らないので、収入額を回答したものを母集団として百分率を出している。 【東京大学学生委員会,2021年度(第71回)学生生活実態調査結果報告書】
3/
文部科学省,国立大学と私立大学の授業料等の推移
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/kokuritu/005/gijiroku/attach/1386502.htm