都市農業 (2008/8/7)

 

 日本ペンクラブ環境委員会の8月研究会のテーマは、「東京で人気急騰する農業体験農園」であった。

 

 都市近郊の農業の維持がきわめて難しい状況にあることは、皆様よくご存じのとおりである。後継者問題、税制、都市計画といった制約要因が都市農業の継続にとって高いハードルとなっている。今回、講師としてお話し頂いた加藤義松さんは、練馬区で農業を営まれ、都市農業を何とか維持しようとこの農業体験農園を考え、1996年に区民を対象にカルチャーセンター方式の事業を練馬区とともに生み出した方である。

 

 今回の彼の話で初めて知ったが、都市計画法の下では、宅地と緑地という概念はあっても、そこには農業を行うめの「農地」という概念はない。農地は法的には「生産緑地」、つまり緑地の一種にすぎない。とりわけ経済バブルがはじけるまでの地価高騰の時代には、高額なマイホーム取得費用の反動として、農地の宅地並み課税は当たり前という風潮があり、農地を宅地化しようという強い政策的誘導が行われた。

 

 そのような環境下で都市農業を続けるには、大変な努力を要する。所得水準を考えても、農業だけで得られる所得はサラリーマンに比べてきわめて低い(注)。大変な労働に比べて、その対価が期待できなくては、将来に明るい絵を描くことは難しい。若い人は役所に勤めたり、サラリーマンを志向したりすることになる。農業従事者が高齢化するなか、後継者の確保はままならない。

 

(注)2003年の販売農家の所得は、農家総所得が771万円であるが、うち、農業所得は110万円に過ぎず、農外所得432万円、年金・被贈等収入229万円で構成される。[農林金融20055月号、300頁]

 

 しかしながら、バブル崩壊後は、社会の意識も少しずつ変わってきている。地価の暴落、経済至上主義の中で進められてきた都市化一辺倒への反省が現れている。サラリーマンの中にも、農業への関心を持つ人は決して珍しくない。食の安全がニュースを賑わし、経済価値だけに目を向けた結果、生活環境が悪化してしまった都市部の状況見れば、それもなるほどと頷ける。また、一般の人たちの人生に対する価値観が変わってきたこともある。お百姓仕事で自然と戯れてみたい、野菜を作ってみたい、という人は結構出てきている。

 

 加藤さんが考案した体験農園とよく似たものに市民農園がある。市民農園は、農家が土地を自治体(東京都であれば区)に貸し与え、畑を作りたい市民に自治体が土地を貸し出すというものである。ただし、「農業」という点で見ると、農家にとって、これは税制上農業収入と見なされず、不動産収入となってしまう。なぜならば、農地を他人に貸して、その賃料を収入としていると見なされるからである。

 

 体験農業は、農家が農業を行うとい原則を崩していない。農地はあくまでも農家自体が耕し、施肥を行う。そして作付け計画も農家が行う。種も準備し、参加費用を払って参加する区民は農家の指導に従って野菜を栽培する(参加者が何を栽培するかを決める権限はない)。いわば、カルチャースクールの農業版である。肥料も、鍬も、農薬もすべて、農家が準備する。(ちなみに、スライドの写真を見せながら、加藤さんがおもしろいことを言っていた。「私にはこんなに沢山の小作がいるのです」)

 

 このようなやり方なので、全くのド素人が参加しても、栽培で失敗することはない。なにせ、筋金入りの本物の農家が微に入り細に入り指導してくれるわけだからである。参加者の評判は高く、毎年の更新率は九割に達するという。そして、彼の体験農園の卒業生の中から5名が田舎暮らしを決め、農業を始めたそうである。

 

 私も横浜の端に住んでおり、周りにはまだ農地が残っているが、これも徐々に宅地化されて消滅し続けている。しかもその多くは、ミニ開発の積み重ねであり、都市としての景観はきわめて悪化している。田園都市という言葉があるが、残された農地を守って、市民にとっての自然環境も保全したものである。

 

加藤さんはご自分のウェッブを開いておられるので、関心のある方は是非ともご覧ください。<http://members.jcom.home.ne.jp/katonouen/>

 

 

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