『天安門ファイル—極秘記録から読み解く日本外交の「失敗」』
城山英己 2022年7月 中央公論社
天安門事件については、これまでに幾つかの本が出ている。それらが天安門事件の実態や中国共産党内部の動きを分析するのに対して、この本は、当時の外交記録や公電に基づいて、日本政府と外務省がどのような反応と外交行動を取ったかを分析する。
事件勃発後、日本政府は表向き中国共産党による人権弾圧に遺憾の意を表明したが、本音では良好な日中関係の維持という短期的な日本の国益を重視した。強行な立場を取る欧米諸国とは一線を画し、日本政府の立場は、人権弾圧を強硬に非難すれば、中国は鄧小平が進めた対外開放を捨て、孤立化し、それはアジアの安定にとって望ましい結果を生まないというものであった。
しかし、中国は日本より一枚上手で、日本の政府の優柔不断さを知っていた。中国の人権弾圧を非難するG7の動き牽制するため、同じアジア国家という言葉を使ってそれに同調しないよう巧みに日本政府を取り込んでいった。
当時の日本政府は、中国が孤立することなく対外開放路線を歩み続ければ、やがては民主的な政治体制ができるであろうと考えたようであるが、その結果は全く違った。あれから30年を超える歳月がたち、中国の経済力は今や日本の3倍である。政治、経済、軍事の全てを手にした中国は、ますます言論弾圧を進め、強烈にナショナリズムを煽る強大な権威主義国家となった。
私の目にも、天安門事件への対応やその後の対中国外交のみならず、その他の国々との係わりでも、概ね日本の外交が曖昧かつ中途半端で終わって来たという感覚がある。
現在のミャンマー軍政府やウクライナに侵攻したロシアに対しても、日本政府が同じようなスタンスを取っているように見えるのは私だけであろうか。