中国への技術流出
(2021/12/13)
昨日の朝日新聞の朝刊第一面に、「中国への技術流出、警戒強める日本」という見出しの記事が出ていた。その内容は、日本や欧米の政府が軍事に転用される可能性が高い機微技術の流出への対策を強化している。その例として、国立大学や国立研究開発法人に所属していた中国人研究者が帰国後、研究機関で仕事をしていた事を取り上げている。日本政府はこれを問題視し、規制を強化しようというものである。
その背景には、中国が2008年、外国の優秀な人材を自国に呼び込む「千人計画」を開始し、招かれた研究者は8000人を超えるという事情がある。また、米国では千人計画を「中国による機密情報を窃取するプログラム」(司法省)と位置づけたという政治的な判断がある。(朝日新聞2021/12/12)
しかし、研究者の交流を中国対民主主義陣営の政治的葛藤という流れだけで捉えて良いのだろうか、という疑問もある。民間企業の研究であれば知的財産の搾取、有り体に言えば産業スパイ行為という側面で捉えることは出来ようが、大学や国研で行われる研究は基礎的な分野が多く、科学技術の底上げという意味合いが強い。また、多くの研究は学術論文の発表を通して公開される。
もはや日本だけに閉じこもって基礎研究が進められる時代ではない。優秀な研究者を世界中から集めなければ、日本の科学技術研究を世界的なレベルに保つことは不可能だろう。むしろ、中国の優秀な研究者を日本に引っこ抜いて、日本に永住して貰う、いや帰化して頂くくらいの意気込みが求められる。
科学技術分野で日本人のノーベル賞受賞者も随分と増えてきた。しかし、国籍で言えば、もはや日本人ではない人も少なからずいる。今年で言えばプリンストン大学の真鍋博士や青色発光ダイオードを発明した中村博士(カリフォルニア大学)も米国籍である。彼らが帰化した理由は至極明快、米国の方が優れた研究環境が整っているからに他ならない。
中国との間に政治的な対決構造があることは分かるが、それ以上に、日本の基礎研究を取り巻くお寒い環境、国が金を投じていない事の方が、もっと大きな懸念に見える。言わずもがな、デジタル通信や人工知能の分野であれば、中国は日本の先を行っている。しかも中国は世界最大の市場である。政府には、是非ともそんな視点で日本の研究開発戦略を立てて貰いたい。