民主党の税制改正案 (2010/11/28)

 

 

民主党は、埋蔵金を吐き出させ、事業仕分けで無駄な支出を抑えることにより、増税なくして、歳入を確保できると、意気込んではみたものの、実際に手に入った財源は当初の目論見から大きくかけ離れてしまった。

 

本来ならば、消費税や法人所得税の見直しを含めて、抜本的な税制改革が必要なはずであるが、とりあえずの急場しのぎの財源確保というわけで、今回政府税制調査会が出してきたものが、所得税の課税基準を見直そうという案である。おおよそ1000万円以上の給与所得者、つまりは比較的給与水準の高いサラリーマンを狙い撃ちにして、増税しようという話である。

 

このあたりの高給サラリーマンであれば、表だって大きな反発は出ないだろうというわけである。もっと平たくいえば、まずは取りやすいところから、がっちり税金をふんだくろうという魂胆である。

 

年収1000万円というのは、サラリーマンにとって一つの願望となる所得水準であろうが、半面、1000万円稼ぐサラリーマンが本当に「高所得者」か、といえば、そうでもあるまい。この辺りの層は、一流企業の管理職、年齢でいえば40代、子供が高校や大学に通い、家のローンもしっかりと残っている、といったところが平均的な姿である。決して、優雅に暮らしているというわけではない。

 

これからの日本の税制を考えるならば、消費税の値上げ、法人所得税の低減は避けて通れない。それをさておいて、とりあえず、高給取りから税金を巻き上げて、不足する財源の足しにしようというのでは、日本の将来は誠に心許ない。

 

経済がグローバル化する中で、日本企業が付加価値を高めるには、いかに高い能力のある人材を集められるかにかかっている。単にモノを製造するだけであれば、人件費の安い途上国に生産拠点を移していく。製造業(二次産業)であれ、金融やサービスの分野の三次産業であれ、将来日本企業が生き残っていくには、研究開発や新しい事業の仕組みを考え出す優秀な人材が不可欠である。このクラスの人たちは、いわゆる中流の上から上流の下の辺りを構成している。

 

さらに重要なことは、これからは、そのような優秀な人材を海外からも引っ張ってこなければ、日本は生き残れない。生産拠点は海外に移転する、研究開発も海外に移す、挙げ句の果ては、本社機構も日本にいる必要はないとなったら、政府は、どのようにして、国内の雇用を確保し、経済を活性化させていくつもりなのだろうか。

 

さてさて、いったい高所得者とは誰を指すのだろうか、よく考えてみよう。本当の金持ちというのは、1000万円そこそこを稼ぐサラリーマンではなく、収入の捕捉が難しい人たちである。彼らにとって、一番の課題はいかに課税を回避するかである。俗にいう、節税や脱税に腐心している層が本当の「お金持ち」の姿である。収入がガラス張りなのはサラリーマンだけであり、それ以外の人たちの所得を捕捉することは難しい。だからこそ、入り口(収入)で税をかけるのではなく、出口(支出)で税をかけるというのが、消費税の考え方である(所得税を逃れたお金であっても、それはどこかで使われる)。

 

今の政府が抜本的な税制改革を疎かにしたまま、このような安易な税制改正しか提案できないのであれば、前回の衆議院選挙でとりあえず民主党を支持した都市部の多数の浮動票は、次の選挙で確実に逃げ出すことになるだろう。

 

 

 

 

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