税と社会保障
(2019/7/9)
今朝の朝日新聞に「嫌われ者の消費税」と題して、政治家、小売業者(商店街振興組合理事長)、そして経済学者のお三方の意見が出ていた。
この秋の消費増税に対する賛成意見、反対意見というよりも、税をどう使うか(歳出)という観点でそれぞれの立場がかなり明確に示されていた。
政治家というのは衆議院議員の伊吹文明さん。
「『無駄遣いさえ無くせば、増税なんてしなくてもよい』というような情緒的な公約で票を獲得しようとする政党や政治家が増えており、心配です。」
ごもっとも。仰ること、まさに正論です。
翻って現実を見れば、政治は7月21日に向けて参議院選真っ只中。野党はすべて消費増税反対、そして「年金と2000万円の貯蓄」問題で自民党(いや安倍政権と言った方が良かろう)を叩く。
ところが、年金を増やすのは良いがその財源については緻密な話などどこにもない。せいぜい、金持ちや大企業から税金を取れ、あるいは歳出を見直せば財源をひねり出せるという程度である。
次に商店街振興組合理事長さんのご意見。
「消費税は納得感がないまま、ずーっと払い続けてきました。消費増税する一方で、陸上イージスの配備やら戦闘機の大量購入やらを進める。でも無駄な歳出をカットする方が先ですよね」
ま、一般庶民の意見としては、これは結構耳にする。防衛費より社会保障費に税金を使えといったところだろうか。
最後は経済学者の野口悠紀夫さん。
「日本には二つの選択肢がある。ひとつは、消費税率をこれ以上引き上げずに、定年延長や、健康が許す限り働き続けることで老後の保障を実現する方法。もう一つは、消費税を北欧並みに引き上げ、社会保障で一生の面倒を見る福祉国家をつくる。」、「参議院選でその議論をすべきなのですが、与党も野党も見当外れの議論しかしていません。」
これは経済学者らしい視点で、税収と歳出の点で社会保障をどうするのかという財政制度の基本論である。
さて、今年度の一般会計予算を見てみよう。
歳入・歳出の規模は101兆4564億円。歳入のうち、税収は62%に過ぎず、32%を国債に依存する。
一方歳出は、国債費(利払いと償還)が23%、正味の政策経費は77%の77兆9483億円にとどまる。社会保障費が最大の費目であり、全体の34%、政策経費を分母にすれば44%を占める。戦闘機の爆買いだとやり玉に挙げられた防衛費は全体の5%、5兆2574億円に過ぎない。社会保障費の6.5分の1である。
参議院選で、野党は増税反対で一致しているが、歳入の3分の1が国債で賄われる現状は余りにも不健全すぎる。我が家の家計をローンの支払いと、新たなローンの借入で凌いでいるようなものである。
防衛費を無駄というのはよいが、金額で言えば5兆円にすぎない。日本は基本的にはGDPの1%以下(2018年で0.92%)の指針を守っている。これは先進国で最も低い。NATOは加盟国に対してGDPの2%の支出を求めている。これに最も抵抗しているドイツでも1.23%(2018年)を投じている。
社会保障も防衛もそれなりの議論の上で歳出を割り振るべき問題である。あそこは無駄そうだからこっちに回せばなんとかなる。はたまた、税収不足は金持ちや大企業から分捕れなどという議論は、その場凌ぎの思いつきでしかない。100年の計を論ずる政治ではない。
EU諸国の付加価値税(日本の消費税に相当)は概ね20~25%。
一方、米国は連邦政府に付加価値税はなく、州がせいぜい10%程度を課税するに過ぎない(州によって異なる)。しかし、米国は国民皆保険でもなければ、手厚い年金制度もない。
突き詰めれば、「高福祉・高負担」か、「低福祉・低負担」かという選択肢になる。「高福祉・低負担」などという旨い話はない。