TPPの終焉 (2016/12/4)
日本だけはTPP(環太平洋連携協定)批准のための国会承認へと進んだが、「酷い取引(terrible deal)」と酷評するトランプ次期大統領がこれを断固否定することは明らかである。つまり、TPPは死んだ。
私は、非常に残念な結果になったと思っている。
TPP以外に、中国を含めた同様な協定としてFTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)とRCEP(東アジア地域包括的経済連携)も存在するが、TPPの終焉により、これらの協定も恐らく先に進むことはないだろう。そもそもFTAAP やRCEP は、関税のみならず、知的財産権の保護や国有企業の優遇といった幅広いテーマを包含しているわけではなく、TPPほど高い理想を掲げるものではない。自国が提案し、10年を掛けてほぼ纏めるに至ったTPPすら賛成しないと言っている次期トランプ政権が、他国、とりわけ中国がルール作りをリードする貿易協定に賛成するはずもない。
中国はモノの輸出が最大の関心事であり、関税だけがテーマとなる半面、サービス、知的財産権の保護、ましてや国有企業への優遇問題をテーマにあげたくもない。逆に日本にとって、もはやモノの輸出にそれほど重要な意味はない。関税率の低減や撤廃よりも、相手国での自由な投資活動、そして知的財産権の保護の方がより大きな関心事である。産業構造の変化を見れば、日本だけの経営資源で対応できない新規産業や高付加価値な産業を誘致するには、自由貿易協定は不可欠である。
加えてTPPが、既得権益を守ることだけに汲々とする補助金漬けの日本の農業を抜本的に改革する機会となるはずであった。海外との競争環境に晒されない限り、日本の農業に自ら改革を進めるという自浄能力などない。この点でも大きな機会を逃してしまった。
少なくとも次期トランプ政権では、自由貿易協定は二国間のテーマとして取り扱うことになるだろう。当然日本に対しては、農業の完全自由化、とりわけ米と畜産物の市場の開放を突きつけることになる。さすがに、日本政府はこれには応じられない。となれば、米国以外の国(まずは中国と韓国だろう)と、レベルの低い自由貿易協定を進めるしかない。
日本は急速に高齢化が進むなか、世界の経済構造の変化について行けなくなってきている。ずるずると世界の発展から取り残されていく可能性は大きい。以前書いたことがあるが、日本の経済規模は1人あたりGDPで見ればOECD34カ国中20位でしかなく、アジアを見渡せばシンガポールや香港よりも低い。世界第三位の経済規模は単に1億3000万人という人口で成り立っているだけである。経済発展がなければ、膨らみ続ける社会福祉の原資は生み出せない。