TPP交渉の行方 (2014/4/30)
オバマ大統領はアジア4カ国の訪問を終え、昨日帰国の途についた。日本との係わりで言えば、大きな議題が二つあったと思う。一つは、尖閣諸島が安保条約の適用範囲であると明言したこと。もう一つはTPP交渉の合意を目指そうとしたことであった。しかし、後者は結果として実質合意には至らなかった。
交渉の詳細は明らかにされていないが、牛肉と豚肉の関税が一番の障碍になったと伝えられている。要は、日本政府は国会と農業団体の頑なな反対に抗えなかったということだろう。が、私には、日本の将来を考えた場合、本当にこれで良いのだろうかという思いが強い。
日本の経済構造は急速に変化してきている。2013年度の貿易収支は13.7兆円と過去最大の赤字を計上した。
一番の理由は、製造業がグローバル化の流れの中で海外に生産拠点を移していった結果である。アベノミクスで円安となったことで、一部の人々には製造業の国内回帰を期待する向きもあったが、それは都合の良い希望的観測でしかない。市場が世界に広がれば、それに応じて生産体制が変化していくのは当然である。一時の為替変動だけで、一度海外に出て行った企業が再び生産拠点を国内に回帰するわけではない。輸出で日本の経済を支えたのは過去のモデルであり、それを続けるには日本のコストは高くなりすぎた。
一方、ものを作ることの付加価値は下がってきている。ものを作るだけならば、中国でも東南アジアや南アジアでも、同じものを同じ品質で作ることが出来る。今更アップルの事業戦略を引き合いに出す迄もなかろう(アップルはカリフォルニアで設計するが、製造は中国に外部委託している)。
日本の政治が農業団体の利権擁護に終始しているうちに、本当に実力のある企業はどんどん国外に事業を展開して出て行ってしまう。電気製品はとうの昔にそうなっているし、自動車もそうなりつつある。日本が将来を見据えなければならないのは、新しい高付加価値な産業を興すことであるが、そのためには、海外から日本への投資誘導は欠かせない。IT産業は米国が独擅場であり、製薬でも同じである。残念ながら、日本にはこのような新しい産業(ニューエコノミー)で世界的といえる企業はない。
アップルの2014年度第2四半期の売上は436億ドル(約4兆4000億円)、純利益が95億ドル(約1兆円)、すなわち通年に換算すれば売上が18兆円、純利益は4兆円に相当する。グーグルの2014年第1四半期の売上は168億5800万ドル(約1兆7300億円)、 純利益は33億7600万ドル(約3470億円)、通期に換算すれば売上6兆9200億円、純利益1兆3900億円である。
一方日本を代表する企業であるトヨタ自動車の2014年3月期決算は25兆5000億円の売上に対して、純利益が1兆9000億円と予測している。日立製作所の2014年3月決算予測は、売上が9兆4000億円、純利益は2150億円である。トヨタと日立は共に日本企業の代表格であるが、いずれもオールドエコノミーである。米国のIT産業と比べた業績の差は明らかである。
もう一つ、製薬業界を見てみよう。世界最大の製薬会社はスイスのノバルティスで売上は505億ドル(5兆1000億円)、一方、日本で最大の武田薬品は1兆6000億円にとどまる(ちなみに世界ランキングでいえば16位)。彼我の差はこのとおりである。
日本の将来を見つめれば、今やどうやって経済を支えていくかを考えなければならない時にある。これまで日本経済を支えてきたオールドエコノミーは、早晩過去のものになっていくだろう。ベンチャー企業を育成できない日本に籠もっているだけでは、残念ながらニューエコノミーを立ち上げることは不可能と思った方がよい。自由貿易を拒み、既得権益を守ることで、じりじりと衰退していくのか、思い切って障壁をなくして、海外の活力を日本に誘導するのか、私はTPPへの参加は大きな岐路だと思っている。