東京オリンピック、何が何でもやる気の国際オリンピック委員会(IOC) (2021/5/28)
どんなに反対意見が出ようとも、何がどうなろとも、国際オリンピック委員会(IOC)は東京大会を開催する気である。
一方、世論はと言えば、国民の多くにとって、今のコロナウイルス感染状況を見れば、どう見てもオリンピックどころではない。オリンピック開催に否定的な声はますます高まるばかりである。
東京都がオリンピックを誘致した当時のうたい文句は、「復興オリンピック」、「世界一コンパクトなオリンピック」であった。そして、コロナ禍で開催が1年延期となった時、首相は「コロナに打ち勝った証しのオリンピック」と発言した。いずれもご立派なるスローガンであったが、今やどこかに吹き飛んでしまった。そんな言葉には、もはや空々しさしか残らない。
反対意見は日本だけに限った話ではない。海外の有力誌も同様な論調である。
ニューヨークタイムズ曰く1/、「スポーツイベントはスーパースプレッダーになるな。オリンピックはキャンセルだ」。そうそう、このスーパースプレッダーと言う言葉、中国では「毒王」である。片仮名英語より、ピッタリ来るではないか。
この記事の前には、ワシントンポストが強烈な皮肉を書いていた2/。「日本は損害を止めろ。そしてIOCに言ってやれ、どこか他を食い物にしろと」。有名な「ぼったくり男爵」と言う称号をバッハ会長に与えたのも、この記事である。
そしてつい3日前には、医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンが警告を発した3/。「オリンピック参加者をCOVID-19から守ろう――リスクマネジメントのやり方が急ぎ必要だ。」
1/ The New York Times, “A Sports Event Shouldn’t Be a Superspreader. Cancel the Olympics”, May 11, 2021
2/ The Washington Post, “Japan should cut its losses and tell
the IOC to take its Olympic pillage somewhere else”,
May 5, 2021
3/ The New England Journal of Medicine, “Protecting Olympic Participants from
Covid-19 —The Urgent Need for a Risk-Management
Approach”, May 25, 2021
IOCに対して何も言えない日本政府は、中止するという選択肢を持ち合わせていない。開催が大前提になってしまった。本音を言えば、開催まであと2ヵ月に迫り、今更もう引き返せないということだろう。
翻ってみれば、戦略的かつ論理的に物事を判断できないのは、日本人の「さが」なのだろうか。例え無理と分かっていても、一度走り始めたら、もう引っ込みが付かない。そこにあるのは、己の面子への拘りだけである。
10年前の福島第一原発の事故でも同じであった。「原子力は絶対安全なのだから、万が一の事故は想定しないし、その対策も考えない」、というのが当時の政府と電力会社の信条であった。
さらに遡り、太平洋戦争当時の軍部の発想。日本は負けることなどあり得ない。撃ちてし止まん。一億火の玉、玉砕あるのみ。そこには客観性、合理性という考えはなかった。
今の政府と日本オリンピック委員会(JOC)の頭の中には、7月、8月の開催中にCOVID-19の拡大が起きないことを唯々祈り、後は無事逃げ延びることしかないのだろう。
そんな日本政府とJOCを横目に、IOCは割り切っている。開催できれば、IOCの勝ち。オリンピックが切っ掛けで感染者数が拡大しようが、知ったことではない。後始末は日本政府にお任せする。東京大会の放送権料を手にした以上、もはや金の切れ目は縁の切れ目――「東京よ、さようなら。有り難う」。
バッハ会長には、急ぎ北京を訪問し、習近平国家主席と来年2月の冬季オリンピックの開催状況について話し合うという、次の大切なビジネスが待っている。
日本は東京大会開催で大きな痛手とコストを抱えることになりそうであるが、ハイリスク、ローリターンのオリンピックの本質をここで考え直す良い機会になるのだろう。それは日本ばかりか、世界にとっても大切なことである。金儲けに走るだけのオリンピックの弊害はずっと前から言われ続けてきたことであるが、今回、遂にそれが顕在化したのだから。
東京の後、パリ大会とロサンゼルス大会までは決まっているが、それに続いて開催を招致する都市が現れるのだろうか?途上国には、もはやこのリスクとコストを受け入れることはできまい。中国とロシアを除けば、招致にご執心となれる国は幾つあるのだろうか。