シャープの身売り先 (2016/2/10)

 

 

経営再建のために提携先を捜していたシャープは、先週、台湾の鴻海の傘下に入ることを決めたと発表した。鴻海は6000億円の資金を投じて、シャープを実質的に買収する。

 

シャープの経営はどん詰まりの危機にある。主力の液晶の売上は不振で、業績の悪化に歯止めがかからない。今年3月期の収支は当初黒字化を目指してきたが、その達成は無理だろう。

 

一方、政府系ファンドの「産業革新機構」は3000億円を出資してシャープの液晶部門を切り離し、ジャパンディスプレー(JDI)に統合する案を提示している。経済産業省もそれを支援してきた。そこにあるのは、またしても「日の丸技術」を外国企業に売り渡してなるものかという、偏狭なナショナリズムでしかない。

 

かつて、NEC、日立、そして三菱電機のDRAM事業を統合したエルピーダを設立した時も同じであった。

 

市場のシェアーを拡大し続ける韓国企業に対して、日の丸技術を守りたいというわけで事業の集約を行った。そこまでは良かった。しかし、経営は好転せず、エルピーダが資金不足に陥り会社更生法を申請すると、日の丸技術を守れと経済産業省が産業活力再生法を適用した。日本政策投資銀行がこの日の丸DRAMメーカーに300億円を出資したものの、その後もじり貧が続き、結局、4480億円の負債を抱えて倒産し、とどのつまりは、エルピーダは米マイクロン・テクノロジーの傘下に入った。

 

要は、偏狭なナショナリズムやセンチメント(感傷)でビジネスは成功しないという教訓である。

 

革新機構がシャープの液晶技術をJDIに集結させるという話もまさにそれである。単に日の丸技術に対する感傷としては美しい話であるが、ビジネスとして展望が全く見えない。JDIそのものがエルピーダの場合と同様に、政府(革新機構)主導でソニー、東芝、そして日立の中小型液晶部門を集約した企業である。そこがシャープの液晶部門を吸収することにどのような相乗効果があるのだろうかといえば、疑問符しか付かない。

 

液晶技術は日進月歩である。最新の技術は有機ELディスプレーである。この分野は韓国が先行し、サムソン電子とLGディスプレーは量産体制を確立している。JDIは技術開発段階にとどまり、量産体制が整うのは2018年といわれている。一方、シャープは研究段階でしかない。というよりも、今のシャープに有機ELディスプレー技術の開発に金を投じる余裕はない。

 

つまり、割れ鍋に綴じ蓋ではビジネスの展望は描けない。

 

シャープは日本で生まれた企業であるが、ビジネスの場は世界である。であれば、大株主が日本企業であるのか外国企業であるのかを問うのでなく、事業を発展させられるのか、現在の雇用を守ることができるのかが最重要課題である。

 

シャープの持つIGZO技術は今ならば高付加価値を持っているが、後数年もすればそれも無くなる。今ならばシャープを高値で新たな投資家に売ることができる。そこで資金を確保し、次世代の技術開発に向かうことが本来の方向である。一番怖いのは、じり貧の中で優秀な技術者がシャープを逃げ出し、技術開発もままならず、ほとんど企業価値のない会社に転落することである。

 

私は別に日本人が統治するシャープであることに意味があるとは思わない。グローバル企業であるためには優秀な経営者が必要である。経営者の国籍は問わない。そういえば、一度倒産しかけた日産自動車を再生させたのはレバノン生まれの希有な経営者カルロス・ゴーンであり、資金を提供したのは仏ルノーであった。

 

 

 

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