ロシア経済 (2023/8/17)
西側による経済制裁はロシア経済にそれほど影響を与えていないという話が、何となく通説のように語られてきた。確かに、昨年2月のウクライナ侵攻直後、ルーブルは大幅に下落したものの、その後すぐに1ドル=60ルーブル程度の水準に持ち直した。昨年を通していえば、石油輸出のお陰で予想以上にルーブルは強く、ロシア政府は西側の制裁は効いていないと喧伝した。
しかし経済統計を見れば、そんな楽観的なお話しにはならない。ウクライナ侵攻後、経済制裁を受けた結果、GDPの伸びはマイナスを続けた。今年の4〜6月期で前年同期比4.9%と5四半期ぶりにプラスに転じた1/が、その中身は果たしてどうなのだろう。
GDPを押し上げた一番の寄与は工業生産である。政府が軍需産業に大量の資金をつぎ込んだことで、 武器や装備品の生産拡大が特需を生み出した。
もう一つは個人消費の伸びである。西側からの輸入品が大きく減少した状況下で、買い控え行動を取っていた消費者が長引く侵攻になれ、再び購買意欲を高めた結果という。ただし、この消費行動にはルーブルの下落に伴う物価上昇を見越した駆け込み需要という側面がある。
そんな中、8月14日の外国為替市場では、1ドルが100ルーブルを越える年初来の大幅なルーブル安となった。翌15日に、ロシア銀行(中央銀行)は金利を3.5%上げて、12%とした2/。しかし、この利上げが直ぐさまルーブル安を是正することには繋がらない。経済的に孤立したロシア経済に、金利が上がったからといって、米国のように海外から金が流れ込むわけではない。
ロシアは石油輸出で外貨を稼ぐが、昨年12月、西側諸国はロシアの石油価格にバーレル60ドルの上限を課した。その結果、今年上半期のドル建て収入は昨年同期比で15%減少した。外貨収入が減る半面、輸入コストは上昇する。今年7ヵ月間のロシアの経常収支は86%減少して、250億ドルとなった。
政府は石油・ガスの余剰収入を使って他の外貨を買い漁るが、この8月9日にそれを放棄した。ロシアは現状5870億ドルの外貨を持つものの、うち3000億ドルは西側の手で凍結されたままである。
戦費の拡大と経常収支の悪化により、ロシア政府の財政状況は苦しい。昨年の財政赤字はGDPの2.3%に当たる3.3兆ルーブル(約4.9兆円)、今年もGDPの2.0から2.5%の赤字を計上すると見られる3/。
1/ 日本経済新聞電子版 (2023/8/12 1:49)
2/ The
Economist (2023/8/14)
3/ 日本経済新聞電子版 (2023/8/12 19:37)