ロシアはNATOを攻撃するのだろうか? (2024/5/30)
よく目にする議論である。その答えはウクライナが敗北するかどうかで判断が分かれる。
今朝の日経新聞のオピニオンの頁に「ロシア、NATO攻撃の恐れ」という標題記事が出ていた。これは欧米の高官や軍幹部の見方を同社のコメンテーターが纏めたものにとどまるが、ウクライナが敗北すればNATOへの限定的な侵略の可能性を肯定している。
プーチンはウクライナがロシアの一部であるという独特の歴史観を持つことで、ウクライナへの侵略を始めた。これは彼にとって正義であり、ウクライナを支援する西側諸国はロシアに敵対する陣営である。その表現は「非友好国」、日本もそれに含まれる。
NATOへの攻撃は既に始まっている。ロシアの諜報機関(GRU1/)は、破壊工作、サイバー攻撃、偽情報の拡散、その他ハイブリッド型の攻撃を仕掛けている。この5月、ベルリン近郊にある軍関連工場で火事が起きた。証拠は無いが、破壊活動が疑われた2/。
4月以降、ロシアを支持するロシアの破戒工作員の一連の逮捕が起きている。
ドイツはGRUの配下にあるドイツ系ロシア人(二重国籍)2人を米軍施設への破戒活動の容疑で逮捕した。ポーランドもウクライナ支援の重要なハブとなる空港の情報をGRUに渡した容疑で1名を逮捕した。
エストニアでは10人が逮捕され、内務大臣とニュースウェブ編集者の車を襲撃する計画が曝露した。ラトビアではラトビア系ロシア人が第二次大戦中に赤軍と戦ったラトビア兵の記念碑にペンキをかけた。そしてリトアニアの首都ヴィルニュスではロシアで獄死したアレグゼイ・ナバルニーの仲間がハンマーで襲われた。
NATO陣営の中でバルト海沿岸諸国はロシアにとって最も手を出し易い相手である。
バルト海諸国にロシア系住民が多いことから、もしロシアがウクライナで勝利すれば、プーチンがバルト海諸国で同じ事を繰り返すことはあながち否定できない。
5月22日、ロイター通信はロシア政府がバルト海の国境線を引き直すための省令(案)を作成したと伝えた。この省令は現在の国境を1985年のソ連当時の国境線に戻すことを意図している。とりわけバルト三国にとって、これはロシアの脅かしに他ならない。
ちなみに5月24日、NATOの事務総長が加盟国はウクライナがロシア領内の軍事標的を攻撃できるよう、供給する兵器の利用に関する制限を緩和するべきとの発言を行った4/。恐らく、ウクライナが負ければ、次にロシアが西側諸国のどこかに手を伸ばす懸念があるからだろう。その時、果たしてNATOは第5条を発動するのだろうか?
1/ Glavnoye Razvedyvatelnoye
Upravleniye,ロシア連邦軍参謀本部情報総局
2/ The Economist, Russia is ramping up
sabotage across Europe (May 12, 2024)
3/ Reuters, Russia deletes draft proposal to
change Baltic Sea border (May 22, 2024),
https://www.reuters.com/world/europe/russian-ministry-proposes-revising-baltic-sea-border-2024-05-22/
4/ The Economist, NATO’s boss wants to free
Ukraine to strike hard inside Russia (May 24, 2024)