『世界大不況からの脱出-なぜ恐慌型経済は広がったのか』 ポール・クルーグマン著 三上義一訳 早川書房 20093

 

 

2008年度ノーベル経済賞を受賞したプリンストン大学教授ポール・クルーグマンの著である。この本、実は10年前に「世界大不況への警告」というタイトルで一度出されており、今回、それを大幅に改訂増補している。「なに、焼き直しか」などと言ってはいけない。クルーグマン大先生は、すでに10年以上前から、今回の経済危機の到来をお見通しだったのだ。

 

なぜ、改訂版なのか?今回の世界同時不況の原因が、過去何回となく起きた地域的な経済崩壊、1997年のアジア通貨危機、その前の中南米の経済危機と同根だからである。米国で起きた住宅ローン(サブプライムローン)の崩壊が、どうして世界的な不況にまで広がってしまったのか。その理由は簡単である。90年代のメキシコ、アルゼンチン、タイ、インドネシア、韓国、そして日本を襲った金融危機が形を変えて再現しただけの話である。しかも、規模を格段に増し、究極の勢いを持って現れた。

 

需要不足から余剰となった資金が新しい金融のメカニズムを通ってバブル市場に流れた。規制当局は、既存の銀行システムに対する規制と安全網の仕組みは持っていたが、いわゆるノンバンクが抱える巨大な危険性について、それほど認識をしていなかった。先進国政府、中央銀行、そしてIMFを含め、これまで景気の後退は金融・財政政策で対応できると思っていたが、どうも今回の不況はそう簡単には対処できないようである。

 

クルーグマンが序論で書いているように、この本では問題の分析に力を入れている。何が起きたのかではなく、なぜ起きたのかを説明することに力点が置かれている。しかも、世界的な経済学者でありながら、決して難しい専門用語や理論をひけらかすことなく、一般人にわかりやすい形で話を進めていく。彼は学者であるばかりでなく、ニューヨーク・タイムズのコラムニストを務めるジャーナリストでもある。文章の中に秘められた反骨精神、ユーモアを交えながらも、批判すべきは辛辣に批判する書きぶりは読者を飽きさせない。

 

その真骨頂は、景気の後退と対策を説明するのに彼が用いた「ベビーシッター協同組合」の例え話であろう。書き出しからこの話が出てくるが、しらけないで読んでいただきたい。確かこの話は、日本のバブル崩壊後10年以上に続いた景気後退の処方箋として、彼が「インフレターゲット論」を提言したときにも使っていたと記憶する。

 

 

この文章は、ビジネスネット書店「クリエイジ」の2009713日の書評として掲載したものです。<http://www.creage.ne.jp/>

 

 

 

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